本研究課題の中で行った研究(Journal of Gastroenterology. 2020;55(7):712-721)で得られた「BMI 25kg/m2未満でのみ、膵脂肪が糖尿病発症の危険因子になりうる」という結果をもとに、BMIを筋肉量と脂肪量に分けて解析するケースコホート研究を行った。CT検診受診者754人について、筋肉量と膵外脂肪量(皮下脂肪・内臓脂肪・筋脂肪・肝脂肪の合計)を測定し、膵脂肪量との交互作用を含め、糖尿病発症との関連を検証した。結果として、筋肉量では膵脂肪量との交互作用は見られず、膵外脂肪量と膵脂肪量との間に交互作用が見られた。膵脂肪と糖尿病の発症を評価する上で、膵臓以外の脂肪を含めて、包括的に検証することの重要性を支持する知見である。 膵脂肪と膵臓癌発症についての検討においては、縦断的な関連を検証するために、膵臓癌の診断を受ける以前に何らかの理由でCTを施行していた膵臓癌患者38人と、年齢と性別をマッチングさせた非膵臓癌患者152人を対象としたケースコントロール研究を行った。膵脂肪量を測定するとともに、併存病態である慢性膵炎や膵管内乳頭粘液性腫瘍、内臓脂肪量も評価して、膵脂肪と膵臓癌の関連を検討した。結果として、膵脂肪量と膵臓癌の間に明らかな関連は認めなかった。 膵脂肪が蓄積した状態である脂肪膵の疫学・診断・原因・臨床的影響・治療について、現在までに得られている知見をまとめた総説を出版した(Nature Reviews Endocrinology. 2022;18(1):43-54)。特に臨床的影響については、本研究課題の中で得られた知見をもとに、脂肪膵だけでは糖尿病発症は起きず、何らかの体内環境因子が加わることで糖尿病発症に至る可能性を考察した。また脂肪膵と膵臓癌に関しても、これまでに報告されている研究結果を総説内でまとめた。
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