本研究では、大腸癌と関連性のあるTROY遺伝子とLGR5遺伝子の共過剰発現細胞を作成し、その機能を検討した。TROY遺伝子を単独で過剰発現させた細胞はMockと比較して細胞増殖能が有意に増加していたが、TROY遺伝子とLGR5遺伝子をともに過剰発現させた細胞はMockと比較して細胞増殖能が有意に低下していた。しかしながら細胞浸潤能は細胞増殖能の結果と全く逆の結果となった。この現象は上皮間葉転換(EMT: Epithelial Mesenchymal Transition)と呼ばれる現象に類似している。EMTはがん細胞は移動・浸潤能が亢進し、がん転移を起こしやすいと考えられているため、TROY遺伝子とLGR5遺伝子がEMT、すなわち癌の転移に関連している可能性が高いと考えた。そこで、これらの細胞を用いてRNAのマイクロアレイ解析を実施したところ、Mockと比較して発現量に大きな差があり、機能が未知のlong non-coding RNA(Linc RNA)を10種類発見した。このLinc RNAが癌と関連があるかを検討するために、47例の大腸癌患者の腫瘍部と非腫瘍部組織から精製したRNAを用いて発現解析を行った。その結果2つのLinc RNAにおいて腫瘍部と比較して非腫瘍部で有意に発現量型が高く、1つのLinc RNAにおいて非腫瘍部と比較して腫瘍部で有意に発現量が高いことが確認できた。今後はこのLinc RNAとTROY、LGR5の関連性を検討していき、大腸癌の治療のターゲット遺伝子となりえるLinc RNAの検索や、予後予測マーカーとしての有用性を検討していく予定である。
|