研究課題/領域番号 |
19K16984
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
小浜 祐行 鹿児島大学, 鹿児島大学病院, 臨床検査技師 (50837276)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 血小板 / 血小板機能異常症 |
研究実績の概要 |
診断に至らない原因不明の出血傾向を呈する血小板機能異常症の症例において、同一家系内におけるエクソーム解析を行った結果、責任遺伝子としてPBX2を発見した。血小板凝集能検査結果から、①血小板内シグナル経路において、PBX2を介した新規の経路が存在する、②PBX2が巨核球分化へ関与している、2つの仮説を立てた。 これら2つの仮説を解明することを研究目的とし、仮説①の解明に向けて検証を行ったので報告する。まず、血小板凝集能異常を示したP2Y12受容体からの経路 (ADP刺激)において、対照および患者の血漿から洗浄血小板を作成し、ADP刺激後の血小板活性化表面マーカー(CD62P, PAC-I)の発現をフローサイトメトリーにて検証した。解析の結果、対照と患者において、血小板活性化表面マーカー(CD62P, PAC-I)の発現量に差は生じなかった。 これらの結果から、PBX2を介した新規の経路は、P2Y12受容体からの経路 (ADP刺激)において、ADP刺激後に血小板内におけるα顆粒の放出から、血小板活性化後の構造変化を表すGPⅡB/Ⅲa形成が生じるまでのシグナル伝達領域ではなく、仮説で示しているアデニル酸シクラーゼサイクル(AC)活性化後の下流領域に存在する可能性がより高まったと言える。 次に、血管内皮細胞増殖因子であり、血小板凝集時に放出されることで知られるVEGFとPBX2において関連があるかを検証した。対照および患者の血漿中における血小板内のVEGFタンパク質量をELISAにて測定した結果、患者検体のVEGFは、対照と比較すると10分の1低下していた。これらの結果から、PBX2とVEGFには、何らかの相互関係があることが考えられる。今後、他の関連遺伝子と共にPBX2との関連性について検証を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回検証した仮説①において、PBX2を介した新規の経路は、P2Y12受容体からの経路 (ADP刺激)において、仮説で示しているアデニル酸シクラーゼサイクル(AC)活性化後の下流領域に存在する可能性がより高まったことから、α2Aからの経路 (Epinephrine刺激)においても、同様に血小板活性化表面マーカー(CD62P, PAC-I)の発現量に差が生じるかを検討する必要がある。よって、現在、Epinephrine刺激におけるフローサイトメトリーの反応系の確立に向け、条件検討を行っており進捗状況は概ね順調である。これらの検討が上手く進めば、抗α2A受容体抗体、抗P2Y1受容体抗体の前処置で、各シグナルを遮断し、血小板活性化表面マーカー(CD62P, PAC-I)の発現量に差が生じるかを検証する予定である。 また、PBX2との関連が示唆されているシグナル分子IP3, CalDaG-GEFIにおいても、VEGFと同様に患者血漿における血小板からタンパク質を抽出し、発現量、リン酸化、また免疫沈降にて相互作用を検討する予定であり、現在試薬を購入し準備段階に入っている。 最後に、仮説②PBX2が巨核球分化へ関与するかの検証として、巨核球系培養細胞Meg01にthrombopoietin (TPO)を加えて分化能を多角的に検討する予定であり、現在、Meg01細胞の培養およびthrombopoietin (TPO)を加えた予備実験を進めている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
仮説②PBX2が巨核球分化へ関与しているにおいて、巨核球系培養細胞Meg01にthrombopoietin (TPO) を加えて多角的に分化能を検討することができれば、血小板の形態変化や分泌顆粒形成を観察し、巨核球系培養細胞Meg01にPBX2のsiRNAを用いてPBX2をノックダウンさせ、分化能の変化を検討する予定である。 また、PBX2変異体を作成し、細胞へ導入後、遺伝子変化の網羅的な解析を、以下の順序で行う。①PBX2の発現ベクターをOrigene社より購入し、Mutagenesis kit (Stratagene社)を用いて当該患者にみられたSNP(single point mutation)を作成し、PBX2変異遺伝子プラスミドとする。②作製したPBX2変異遺伝子のプラスミドベクターを巨核球系細胞株Meg01へ遺伝子導入し、野生型PBX2と変異型PBX2の両者の発現を確認する。③野生型PBX2、変異型PBX2導入後のMeg01細胞からタンパク質抽出・mRNA抽出を行う。④PBX2の発現を確認後、Affimetric社のマイクロアレイを用いて、mRNAの網羅的解析を行う。 以上を計画的に進行していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染の蔓延により、検査技師としての業務が増大し、2,3か月程度の研究が不十分であった。その分の計画は次年度に行う予定であり、実験に必要な試薬等消耗品の購入に充てることとした。
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