研究課題/領域番号 |
19K16992
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
小池 佑果 昭和大学, 薬学部, 助教 (10644479)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 漢方 / お血 / 血液粘度 / 月経困難 / 不定愁訴 |
研究実績の概要 |
本研究は東洋医学で基本概念の1つである「お血」に着目した研究である。 お血は微小循環障害や血行障害に近いと考えられており、お血の症状は血液粘度上昇や血小板凝集増進が報告されている。本研究はお血治療薬の作用機序解明と新たなお血治療薬を提案する事を目的としている。本年度は、お血治療薬が作用する血液粘度因子と血小板凝集に関わる因子を特定する為、以下の試験を行なった。 お血の治療に用いられる漢方10種(当帰芍薬散、大黄牡丹皮湯、加味逍遙散、温経湯、通導散、女神散、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、摂衝飲、キュウ帰調血飲、治打撲一方)を熱水抽出し、凍結乾燥しエキス粉末を作成した。 血液凝固系に及ぼす影響の検討は、10種類の漢方エキスについてAPTT、PTを測定した。大黄牡丹皮湯、加味逍遙散、温経湯、通導散、女神散、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、摂衝飲、キュウ帰調血飲、治打撲一方の9種類が2.5、5、10 mg/mLにおいて APTT、PTを延長した。更に、これら9種の漢方が1 mg/mL でトロンビン活性阻害を示す事を明らかにした。中でも最も強いトロンビン活性阻害を示した治打撲一方エキスの活性成分解明に着手した。まずエーテルと水でエキスを分配したところ、エーテル画分にトロンビン阻害活性が認められため、当該画分をカラムクロマトグラフィーにて分離を繰り返し行なった。 また、血液線溶系に影響を示す漢方は認められなかった。 血小板凝集能に与える影響についは、人血からの血漿分離やアデノシン二リン酸の添加量と濃度を検討し血小板凝集装置による実験系を構築した。この試験法により血小板凝集能を測定した結果、当帰芍薬散、大黄牡丹皮湯、加味逍遙散、温経湯、通導散、女神散、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、摂衝飲、治打撲一方1 mg/mL で凝集抑制が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019から2020年の2年間は既存治療薬の作用ポイントを特定する事を目標としている。具体的には、血液凝固系で①APTT、PT測定、②トロンビン活性試験、③第Ⅹ因子活性試験。血液線溶系で④フィブリン平板法、⑤プラスミン活性試験、⑥ウロキナーゼ活性試験。血小板凝集能で⑦血小板凝集能試験、⑧血小板の活性試験、⑨フォンウィルブラント因子( vWF)活性試験を予定している。 2019年度は、血液凝固系の①APTT、PT測定、②トロンビン活性試験、血液線溶系の③フィブリン平板法、血小板凝集能の⑦血小板凝集能試験を行なった。更に、APTT、PT試験で凝固時間を延長しトロンビン活性試験で強い阻害活性を示した治打撲一方エキスについて分配と分画を行い、活性成分の単離を試みている。これらの試験結果からお血治療薬に使用されている9種の漢方エキスは血液凝固系のトロンビンに作用する事でAPTT、PTを延長している事が示唆された。また、血小板凝集にも殆どの漢方エキスが作用している事が明らかとなった。 血液線溶系の⑤プラスミン活性試験、⑥ウロキナーゼ活性試験は条件検討を行い、試験可能な状態ではあるが、フィブリン平板法の結果より、線溶を示した漢方エキスが認められなかった為実施は中止した。以上より、当初の予定通り研究は進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、2019年度にAPTT、PT延長を示した漢方エキス(大黄牡丹皮湯、加味逍遙散、温経湯、通導散、女神散、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、摂衝飲、キュウ帰調血飲、治打撲一方)について血液凝固系の③第Ⅹ因子活性試験をする。また、血小板凝集能を抑制した漢方エキス(当帰芍薬散、大黄牡丹皮湯、加味逍遙散、温経湯、通導散、女神散、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、摂衝飲、治打撲一方)について血小板凝集能の⑧血小板の活性試験、⑨フォンウィルブラント因子活性試験をする。2019年度の結果と合わせて、既存お血治療薬の作用ポイントを特定する。 更に、トロンビン活性を強く阻害した治打撲一方エキスの活性成分を単離し構造決定する。構造が明らかになり次第、その構造に近い化合物を含む植物や生薬を国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所にて作成された薬用植物総合情報データベースや最新の文献により調査する。最終的にはこれらのスクリーニングにより得られた新しい植物や生薬が血液粘度や血小板凝集能に対する阻害活性を調べ評価する事により新規お血治療薬候補を見出す。そして、2021年度に予定しているお血モデルマウスを使った新規お血治療薬候補の効果を検討する準備をする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響により3月末に予定していた試験を中止した為、残高が生じた。コロナが落ち着き次第、当初予定していた試験を開始するため翌年度分と合わせた助成金を使用する。
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