筋萎縮性側索硬化症(ALS)の運動神経細胞死の原因の一つとしてグルタミン酸による運動神経過剰興奮が考えられている。これまでの我々の研究から過剰興奮やその背景にある神経伝達機能異常は診断および治療上の重要な標的と考えられてきた。近年、運動皮質の興奮性を評価する方法として、閾値追跡法2連発経頭蓋磁気刺激検査(TT-TMS)によりグルタミン酸およびGABAが関与する神経伝達機能が類推可能とされている。脳内神経伝達機能の評価方法としては、陽電子放射断層撮像(PET)検査を用いたグルタミン酸受容体5の機能評価や、MRスペクトロスコピー(MRS)によるグルタミン酸およびGABAの機能評価が可能となってきた。これらの検査を用いてALSにおける神経伝達機能異常の有無と運動神経過剰興奮性、TT-TMSならび機能画像で得られた所見とALS患者の臨床症状、グルタミン酸系ならびにGABA系の神経伝達機能を修飾する薬剤投与前後における、運動神経興奮性ならびに神経伝達機能の変化と臨床症状の変化との関連を明らかにし、治療薬探索への臨床応用への展開を目指したものである。 本研究において30名の健常対照にTT-TMSを実施した。人種による違いも考慮し、白人との比較をしたが、有意な差はなかった。また、3名のALS患者に対して既存の治療薬であるリルゾールを内服する前と内服後4週間での運動皮質の興奮性や臨床症状の評価、PET検査、MRSを実施した。コロナウイルス流行のためALS患者を組み入れ機会が減ったため、今後の流行状況を見ながら組み入れていき、データ解析を行って。これらの結果より、ALSの病態解明に繋がるものと考えられる。このデータを基に、今後ALS進行抑制を検討するさらなる臨床試験へと発展していくことが予想される。
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