研究課題
2019年度では、まずは、マウスを用いた刺激の安全性確認のための実験系の確立を試みた。京都大学内での動物実験系、特に刺激実験系の構築のため、実験室の確保、刺激電極の選定、ノイズ遮蔽のための器具の検討などを行っていたが、動物実験に習熟した人材の確保の問題などにより思うように進んでいない。動物での刺激実験に習熟した他大学の研究機関と共同研究を行い、動物実験を進める方針としたが、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、京都大学の方針として原則的に新規実験の停止が決定され、また他大学での実験開始も現状では難しく、本実験の進行が停止している。一方で、ヒトを対象とした研究では進展が見られた。まず、ヒト海馬傍回(Entorhinal cortex)の電気刺激による、大脳皮質上で広範囲に記録される特異的な反応(P1w)を見出した。P1wは、Entorhinal cortex・海馬の巨大誘発電位の波及(遠隔電場電位)であることが示唆され、さらに記憶機能との関連を示した。この研究結果に関しては、国際科学雑誌に論文を投稿・掲載されるに至った(Takeyama H et al. Brain and Behavior 2019). この反応は、今後ニューロモデュレーション刺激の部位選定にとって有用であると考えられた。また、ヒトを対象として、ニューロモデュレーション刺激の効果を評価するための順序記憶課題を開発し、てんかん外科症例1例において、課題遂行中の海馬の脳波活動を頭蓋内電極から実際に記録した。時間情報に関する記憶の活動を詳細に解析中である。他に、再認記憶課題を開発し、同様に3例のてんかん外科症例において、海馬からの脳波活動の記録を行い、国内学会にて発表した(光野、武山 et al. 2019)。今後、さらに症例を増やし、記憶システム固有の脳律動バイオマーカーを探索予定である。
3: やや遅れている
刺激の安全性確認のための動物実験に関しては、実験系の確立が立ち遅れている。動物実験に習熟した人材確保の問題、新型コロナウイルス感染拡大に伴う大学での実験の停止の影響などが考えられる。また、ヒト研究の対象である、頭蓋内電極留置によるてんかん外科の術前評価の症例数が当施設で減少しており、症例数が集まりにくい状況がある。また、当施設で使用していた頭蓋内電極(Stereo-EEG用の深部電極)に仕様上の不具合がみつかり、リコール対象となったため、stereo-EEGのための深部電極留置術そのものが現在ストップとなっている。
動物実験の進行については、新型コロナウイルス感染の終息が待たれる状況であるが、それに先立ち、実験室の環境整備や人材の確保に関して現時点で準備を進めていく。ヒトを対象とした研究については、stereo-EEGの電極の問題が解決されれば、今後症例の蓄積が期待されるため、記憶システム固有の脳律動バイオマーカーの探索を進めていく。
2019年度において、刺激の安全性確認などを目的とした動物実験を行う予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大などの影響で、実験準備等が想定外に進まなかったことが、次年度使用額が生じた一番の理由と考えている。使用計画は、新型コロナウイルス感染の今後の状況に大きく左右されるが、動物実験に必要な備品や人件費への使用を予定している。
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Brain and Behavior
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10.1002/brb3.1366