筋強直性ジストロフィー(DM)は、CTGやCCTGといった塩基繰り返し配列(リピート)の異常伸長が原因の遺伝性筋疾患である。DMでは変異遺伝子より転写された、異常伸長リピートをもつRNAの毒性により、スプライシング制御機構の障害を来すが、DMでみられる最も重要な症状である進行性筋萎縮の詳細な機構はいまだ解明されていない。DM患者由来筋芽細胞で筋分化障害や早期分化停止が報告されているものの、筋採取時の患者年齢や筋芽細胞誘導時の条件の違いなどのため患者由来細胞での解析には限界がある。本研究では異常伸長リピートを導入したDM細胞モデルを使用して、筋分化障害や早期増殖障害の機序を明らかにすることを目指している。前年度までに異常伸長リピートを持つCTG繰り返し配列を合成し、C2C12マウス筋芽細胞ならびにTIG-3初代線維芽細胞に導入し最適なモデル細胞を構築し、これらのモデル細胞で酸化ストレスならびに老化細胞が増加することを明らかにした。今年度は、モデル細胞を使用し、RNA毒性により、ミトコンドリア機能障害、過剰なROS産生、DNA損傷応答が引き起こされることを明らかにした。また、モデル細胞では特に老化に伴う細胞周期阻害物質p21とp16、分泌メディエーターであるIGFBP3とPAI-1が増加していることを明らかにした。 本年度の研究実績から、異常伸長リピートRNAを持つDM細胞モデルでは細胞増殖の早期停止がテロメア短縮と直接関連しないpremature senescenceによるものであることが判明し、異常伸長リピート発現に起因する老化誘導因子を同定した。
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