研究課題/領域番号 |
19K17011
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
司城 昌大 九州大学, 医学研究院, 共同研究員 (80822155)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 脳梗塞 / グリア瘢痕 / アストロサイト / ミクログリア / アネキシン / ANXA1 |
研究実績の概要 |
令和元年度において、種々の脳梗塞形成時期から成るヒト脳梗塞組織切片(剖検組織14症例20標本、手術組織10症例10標本)及び非虚血病変組織切片(病理解剖組織は対応する14症例14標本、手術組織8症例8標本)を作製し、免疫組織化学染色法で標的蛋白分布(ANXA1、アストロサイト形態・機能標識蛋白、ミクログリア形態・機能標識蛋白など)を詳細に解析した。 その結果、ANXA1蛋白はヒト脳梗塞辺縁の反応性アストロサイトにおいて、細胞体や腫大細胞突起の表面に水チャネル(aquaporin 4:AQP4)、グルタミン酸輸送蛋白(excitatory amino acid transporter 1: EAAT1)と共局在することを見出した。非虚血部ではANXA1とAQP4ないしEAAT1の共局在はほとんど見られないことから、脳梗塞時に生ずる浮腫や過剰なグルタミン酸にアストロサイトが応答し、ANXA1の発現を亢進している可能性がある。マウスを用いた脳梗塞モデルでは反応性アストロサイトにおけるANXA1陽性所見は報告がなく、ヒト脳におけるユニークな動的変化として注目される。さらにミクログリア/マクロファージに関する新知見として、梗塞内部において、泡沫状マクロファージにはANXA1が高発現した一方で、TMEM119陽性組織常在性ミクログリアではANXA1発現は亢進せず、炎症担当細胞においてはその組織起源や機能に応じてANXA1応答が異なることが示めされた。これらの結果を米国神経病理学会誌であるJournal of Neuropathology and Experimental Neurology (Impact Factor 3.46)に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト脳梗塞での組織学的解析を進め、アストロサイトおよびマクロファージにおけるANXA1発現様式を解明し、学術論文として発表した。さらにミクログリアの形態的な表現型解析に関して、正常ヒト脳の組織標本を用いて、種々の機能標識蛋白(Iba-1:全ミクログリア・マクロファージ、TMEM119:組織常在ミクログリア、HLA-DR:障害性ミクログリア、CD163:組織保護性ミクログリア)の免疫組織化学染色法の至適条件ならびに標識細胞密度の定量評価手法の構築をほぼ完了した。
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今後の研究の推進方策 |
現在、COVID-19への対応のため、交配や遺伝子導入などの長期間を要する動物実験が実施困難な状況にある。このため当面はヒト病理標本を用いた組織学的解析、およびヒト・マウス由来細胞を用いた生化学的解析を重点的に進める。 令和2年度の目標として、(1)引き続きヒト脳梗塞標本の組織学的解析を進める。主に脳梗塞時の組織保護機構とANXA1発現様式の関連性を追求すべく、細胞生存因子との発現相関性や炎症制御細胞(制御性T細胞や組織保護性ミクログリアなど)分布の解析を試みる。必要に応じて解析症例数の更なる増加を図る(剖検症例・手術症例ともに最大で各40例を予定)。(2) U373MG株を用いた生化学的解析手法(定量PCR法やウェスタンブロット法によるANXA1遺伝子・蛋白検出)の確立を目指す。それを基盤として、虚血環境模倣を含めた刺激実験(低酸素負荷:BIONIX低酸素培養キットを使用、低グルコース負荷、グルタミン酸過剰負荷、LPSや免疫調整因子の負荷)を実施し、ANXA1発現規定因子の同定や種々の細胞機能(生存・形態変化など)との関連性の究明を目指す。 令和3年度の目標として、ヒトないしマウスアストロサイト初代継代細胞で各種刺激実験を行い、ANXA1挙動の検証や種間の挙動差異を比較する。さらにANXA1遺伝子強制抑制実験を行い、各種刺激に対する反応変化を評価し、アストロサイトにおけるANXA1の機能同定を目指す。動物実験に関しては、C57/BL6野生型マウスにおける脳梗塞モデル(中大脳動脈永久閉塞)の作出手技の習熟、ならびに野生型マウスにおけるAnxa1の分子生物学的動態、発現細胞の病理組織学的挙動の検証を目指す。状況に応じて、Anxa1遺伝子改変実験も実施すべく環境調整を試みる。
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