研究実績の概要 |
本研究では、パーキンソン病の発症機序にリソソーム病の原因遺伝子が関与することに着目し研究を行った。ゴーシェ病、ニーマン・ピック病、異染性白質ジストロフィーなどのスフィンゴリピドーシスといわれるリソソーム病の原因遺伝子変異キャリアがパーキンソン病発症リスクを上昇させることが報告されていることから着想を得て、スフィンゴ糖脂質の分解代謝に関わるサポシン(sphingolipid activator protein)をコードするプロサポシン遺伝子が家族性パーキンソン病の原因遺伝子であることを報告した(Oji, et al. Brain 2020)。プロサポシン遺伝子は孤発性パーキンソン病の発症リスクとなることも見出し報告している。さらに、プロサポシン遺伝子変異を持つ家族性パーキンソン病患者由来の皮膚線維芽細胞やiPS細胞由来ドパミン神経を解析することにより、プロサポシン遺伝子変異によりプロサポシンが小胞体に停滞し細胞内輸送異常を生ずることを明らかにした。さらにオートファジー・リソソーム系の障害、α-シヌクレインの凝集傾向が引き起こされることを明らかにした。プロサポシン遺伝子変異ノックインマウスの解析では、運動障害が起こることと中脳黒質tyrosine-hydroxylase陽性神経細胞の変性脱落も見出しており、ヒトのパーキンソン病病態を再現した。また、健常者由来iPS細胞にパーキンソン病関連プロサポシン遺伝子変異を導入したiPS細胞を作製し、ドパミン神経細胞に分化させ解析を行ったところ、電子顕微鏡の観察でゴルジ装置に異常がある可能性が見出されている。同様の変化はプロサポシン遺伝子変異を持つパーキンソン病患者由来の皮膚線維芽細胞でも見出されており、ゴルジ装置異常がパーキンソン病発症機序に関わる可能性を示唆する結果を得ることができた。
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