アルツハイマー病における神経細胞の機能障害にDNA傷害の蓄積が関与しているという知見をもとに、分化後に分裂せず、一生涯にわたって同一のゲノムDNA分子を利用し続ける神経細胞において,ゲノムDNAの恒常性をどのように担保しているのか、という生理的機序の解析を行った。特に神経細胞の活動依存的なDNA傷害・修復は神経細胞の機能維持にとって重要であり、この点に注目して解析を行った。 具体的には、神経前駆細胞から分化させて作成した成熟神経細胞をNMDAで刺激処理し、その後の反応について、ゲノム構造およびゲノム修飾の観点から解析を行った。NMDAの刺激を行うと、ゲノムDNAの構造は数十分単位で大きく変化をするが、約24時間をかけてほぼもとの構造に戻ることがわかった。また、ゲノム修飾を観察すると、ゲノム構造に同期して修飾の変化が起きることが確認された。ゲノム構造については、chromatin accessibilityを用いて確認を行った。この実験系にDNA傷害マーカーを利用したFACSを組み合わせることにより、神経細胞の活動依存的なDNA傷害を定量的に評価することが可能となった。 このような神経細胞におけるDNA傷害・修復系の遺伝学的なスクリーニングを行うため、CRISPR Libraryによるスクリーニングを行った。具体的には、CRISPR Libraryを導入した成熟神経細胞をNMDAで刺激を行い、上記のDNA傷害マーカーを利用したFACSで定量し、スクリーニングを行った。これにより、DNA傷害・修復に関与する遺伝子のスクリーニングを行った。
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