本研究では、健常者および神経変性疾患患者の腸内微生物叢のメタゲノムデータを比較し、組成および遺伝子機能の相違を検討することを目的とし、次のAからDの順に研究した:A 糞便サンプルからの腸内微生物叢の遺伝子抽出、B メタゲノムデータ解析、C 遺伝子機能解析、D 神経病理学的検討。まずAについて、アルツハイマー型認知症、パーキンソン病関連疾患、およびその他の神経変性疾患の患者様、高齢健常者の方々の糞便サンプルを募集し収集し、細菌分画、ウイルス分画に分けて遺伝子を抽出し、HiSeqで塩基配列を決定した。次にBについて、東京大学医科学研究所のスーパーコンピュータSHIROKANEを利用しデータ解析したところ、各疾患において、健常者の腸内細菌の組成とは統計的に有意に異なる腸内細菌叢の破綻が認められた。Cにつき、得られた遺伝子からORF領域を同定し、KEGGの遺伝子機能解析を行った。その結果、患者群では特徴的な細菌の生存に関わるKEGGパスウェイの構成遺伝子のアバンダンスが健常者と比べて統計的に有意に増加しており、一方で、有用菌の相対的な減少に伴い一部の一次代謝経路を構成する遺伝子のアバンダンスが相対的に減少していることが分かった。Dについては、疾患関連分子の剖検脳における分布を検討するため、多重免疫電顕の手法につき検討し、結果を論文で発表した。また、疾患特異的ヒトiPS細胞について、中脳ドーパミン作動性ニューロンへの分化誘導の条件検討を行い、発症に影響を及ぼしうる候補の菌を感染させ、ニューロンへの影響を検討した。今年度はサンプル数をさらに増やして統計学的検討の信頼性を増し、疾患により特徴的な腸内微生物叢の組成および機能の変化を明らかにし、得られたデータについて論文化を目指して追加実験を進めた。今後は論文報告と共生病原腸内細菌(パソビオント)の制御に関する革新的な治療法の創出を目指す。
|