研究課題/領域番号 |
19K17030
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
川畑 和也 名古屋大学, 医学部附属病院, 医員 (60837409)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | パーキンソン病認知症 / 神経ネットワーク / 安静時機能的MRI / パーキンソン病認知症前駆期 / 認知症発症リスク |
研究実績の概要 |
本研究の目的はパーキンソン病患者が認知症へ移行するリスクに関するネットワーク基盤を明らかにすることである。これまでの我々の研究で、非記憶低下主体の認知機能低下では視覚ネットワークおよび小脳ネットワークに異常を呈することを明らかにしている。そのため次に、パーキンソン病の視知覚機能低下に着目をした。視知覚機能低下は将来の認知症発症のリスクとして知られている。その視知覚課題を用いてパーキンソン病の視知覚機能を評価したところ、欠けている箇所を推定してアルファベットを同定する課題でパーキンソン病では有意に低下をしている症例が見られることを明らかにした。さらにそれが腹側視覚情報処理経路のフィードバックが低下していることを機能的ネットワーク解析により明らかにして、英文論文化を行った(Visuoperceptual disturbances in Parkinson’s disease. Clinical Parkinsonism Relat Disord. Elsevier. 2020; 3: 100036. 査読有り)。これはパーキンソン病の一次視覚野の活動がなぜ低下をしているかという未解明であった問いに答える結果の一つでもある。 さらに、パーキンソン病と認知機能低下との関係についてもさらなる検討した。健常者に比較してパーキンソン病では小脳-大脳基底核の機能的な結合は広範に低下をしており、小脳後葉の領域と視床下核との機能的結合がパーキンソン病の運動症状と関連をしている一方、尾状核との結合が高次脳機能と関連をしていることを明らかにした。この研究成果は英文誌に投稿中である。小脳は将来新規リハビリテーションのターゲットとしての可能性も秘めている領域であり、その基礎を築く上で重要な発見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記の通り、パーキンソン病の視知覚障害の特徴について明らかにするととともに、査読を経て英文学術誌に公表をされた。パーキンソン病での視覚機能の障害は通常の診療において明らかになることが少ない症状の一つではあるが、パーキンソン病患者の多くで潜在的に何らかの視覚機能低下を有しており、日常生活にも影響を与えていることが近年の研究から明らかになっている。さらにパーキンソン病は後頭葉の機能低下が将来の認知機能低下のリスクとなるものの、どのような機序で後頭葉機能の低下が起きるのか、病理学的な観点からも明らかにはなっていなかった。本研究では視知覚低下の臨床特徴とその機能的ネットワークの変化を明らかにするのみならず、dynamic causal modelingの手法を用いてその因果性を検討し、腹側視覚処理経路のfeedbackが低下していることまで明らかにしている。 またこのような視知覚に関する研究と平行して、これまでの研究からパーキンソン病の小脳に関する着想を得ることができ、これについても現在英文学術誌に投稿中である。この研究は健常者の小脳機能に基づいた機能的に分割を行い、パーキンソン病の高次脳機能および運動症状と関連する小脳-大脳ネットワークがどのように変化をしているかを明らかにした。小脳は運動感覚の調整のみならず、高次脳機能や感情などにも関わっている重要な脳の部位の一つである。大脳皮質、大脳基底核などとともにネットワークを形成しており、神経変性疾患における運動以外の小脳の役割についてあまり注目をされていなかった。機能的ネットワーク解析は、複数のシナプスを介したネットワーク形成について明らかにすることの優位性を有しており、これまで解剖学的な解析ではわからなかったパーキンソン病の小脳と大脳基底核との関係を明らかにすることができた。本研究成果は当初の計画以上の進展であった。
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今後の研究の推進方策 |
パーキンソン病認知症発症に関連するリスクについて、臨床特徴の評価および脳機能ネットワーク解析は現在も継続している。特に視知覚機能に関連する縦断的な検討も行い、その個人レベルでの経時的変化について解析をしている。パーキンソン病の高次脳機能変化は非線形な長期的変動を有することが知られている。そのため縦断的な解析において本研究では、全体としての推移ではなく、改善や悪化などの個人レベルの変動性に着目して臨床データの解析を行い、得られた研究成果は現在英文誌へ投稿準備中である。また、大脳基底核や視床と小脳の機能的ネットワークとの関連について、パーキンソン病の変化のみならず健常者で明らかにすべき事も多く、健常者でのデータを用いて解析を現在行っており、この研究成果について発表予定である。さらに、健常者で明らかにしている皮質下の機能的ネットワークとの関連について、パーキンソン病ではどのように変化しているのか、これらを今後順次検証をしていく必要がある。 パーキンソン病での高次脳機能障害に関して、これまでの研究から、軽度認知機能障害は将来認知症になるリスクとして確立している一方、その低下様式は一様ではなく、時間経過を経て改善している症例も少なくない。そのためパーキンソン病において認知症発症リスクを有していても、認知症を発症する症例と発症しない症例がある。認知症発症高リスクであっても認知症を発症しない症例にどのような特徴があるか、本研究課題から更に発展させた形で研究を推進していく予定である。認知症発症リスクを有していても発症しない症例において、脳機能ネットワークの観点からどのような特徴があるのか明らかになることで、今後の認知症の発症を予防するための介入研究への手がかりになる可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 情報収集を目的としていた旅費がコロナの影響で中止となった。 (使用計画) 未使用額については、令和2年度に行う、検査及びデータ入力者の雇用に充当する予定である。
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