研究課題/領域番号 |
19K17040
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
モハンマド アブドラ 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 研究員 (10834260)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / 血液診断マーカー |
研究実績の概要 |
【背景】本邦において、アルツハイマー病(AD)患者数は増加している。ADの診断法には、髄液検査やPET検査(脳内Aβ検出)があるが、髄液検査は高侵襲で、PET検査は高価で実施可能な施設も限られるため、一般病院での検査は困難である。
【現在までの研究成果】 我々は、簡便なAD診断薬を開発すべくバイオマーカーの探索を行ってきた。エクソソームのマーカーの一つであるフロチリンに関する研究の中で、偶然、Aβ投与により脳細胞からのフロチリン分泌が有意に減少することを発見し、その細胞内メカニズムを明らかにした(J Alzhheimer Dis, 2016)。その後、AD患者の髄液および血清におけるフロチリンを定量したところ、非ADと比較して有意にフロチリン量が低下すること、MCI(軽度認知障害)患者血清においても、脳内Aβ沈着のある群では、沈着のないMCI群に比して有意に低下することを発見した。この成果を論文発表するとともに(J Alzheimer’s Dis, 2019)、PCT出願し、外国移行(米国、欧州、日本)した。 さらに、AD発症前のMCI段階でも脳内Aβ沈着陽性者と陰性者を鑑別できることを明らかにした。また、予備検討段階ながら、MCI段階で鑑別ができる可能性が、市販抗体を使ったELISA測定で示された。以上の結果は、血清におけるフロチリン定量がADの早期血液診断マーカーになることを示している。 現在、市販抗体を用いたELISA系の確立を行っており、予備実験から測定系の確立の可能性が確認された。次年度は、モノクローナル抗体の開発を行い、ELISA測定系確立を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
私は、エクソソーム分泌を、エクソソームマーカーであるフロチリン定量によって解析したところ、Aβ存在下でフロチリン分泌が著しく低下するとの想定外の発見をした。AD脳では、Aβレベルが指数関数的に増加する。そこで、AD脳脊髄液、血清におけるフロチリンを定量したところ、ADの脳脊髄液にとどまらず、血清で有意にフロチリンレベルが低下することを発見した。今回の研究により、血管性認知症との鑑別が可能であることを明らかにした。またMCI(軽度認知障害)血清においてMCIのPET陽性者では陰性者に比べて有意にフロチリンレベルが低下することを明らかにし、論文発表するとともに、PCT出願から外国移行することができた。
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今後の研究の推進方策 |
市販の抗体を用いたELISA測定系の確立と、モノクローナル抗体開発を行い、血液診断キット開発を行う予定である。米国FDAにAbeta抗体であるアディカヌマブ(抗体療法)が申請された。これは、ADの根本的治療法(疾患修飾薬)が上市される可能性を示しており、早期発見の意義は今までと比して次元が異なるほど重要性が増したことを意味する。 したがって、簡便かつ安価である本品は、ADの診断補助薬として一般病院や診療所などで使用できる意義があり、非専門医から専門医または抗体療法のできる専門医療機関への紹介が迅速に行える。また、ADとそれ以外の認知症の鑑別診断にも役だち、適切な治療を早期に受けられるメリットがある。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験がうまくいったために、予算計上していた抗体の試用量が少なくて済み、購入する必要がなくなったため。予算の残額は、次年度の実験器具の購入に充てる予定である。
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