研究実績の概要 |
我々は、アルツハイマー病(AD)患者血清において、エクソソームに存在するフロチリンが、軽度認知機能低下を示す極早期よりAD疾患特異的に低下することを発見し、ADの血液診断マーカーになることを明らかにした( Abdullah et al, J Alzheimer Dis, 72: 1165-1176, 2019)。また、フロチリンは、神経細胞ならびにアストロサイトから分泌され、aamy;loid-beta protein(Abeta)存在下で分泌が低下することも明らかにした(Abdullah eta al, J Alzheimer Dis, 53: 1433-1441, 2016)。しかし、なぜ脳内で起こるAD病態が血液中のフロチリンレベルの変化をもたらすかは不明である(学術的「問い」)。 血管内皮細胞からもフロチリンは分泌されることから、本研究では、まず脳内と血液を隔て、かつ双方からの影響を受ける血管内皮細胞に焦点を当て、脳側Abeta存在下で血液側から分泌されるフロチリンの低下のメカニズムを血液脳関門培養モデルを用いて検討した。 次に、ADモデル動物を使用して、脳内のAD病態の変化に伴って血液フロチリンレベルの変化が起こることを検討した。 結果:その結果、血液脳関門培養モデルにおいて、脳側に投与したAbetaが、血管内皮細胞に作用し、血液側に分泌するフロチリンレベルを低下させることを確認した。 また、ADモデルマウスとしてAPP-ノックインマウスを用いて、脳内に沈着するAbeta、認知機能、ならびに血液中のフロチリンレベルを検討した結果、脳内Abetaレベルの上昇・認知機能障害が生じる時期に一致して血液中のフロチリンレベルの有意な低下を認めた。 以上から、脳内に蓄積するAbetaレベル上昇が血管内皮細胞を介したフロチリン分泌低下を誘導することが明らかになった。
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