研究課題
例数を増やすために死後脳の収集・蓄積を行うとともに、生前の臨床診断、臨床経過(罹病期間、発症年齢、臨床症状、薬剤、併存身体疾患等)、病前の社会適応、家族歴、神経画像等の臨床情報の収集を行った。これらの臨床情報に加えて、神経病理学的診断情報を漸次データベース化した。データベースを用いて、現在までに蓄積した統合失調症死後脳の、生前の認知症症状および神経病理学的な神経変性疾患の頻度を検討した。アルツハイマー病理、レビー小体病理の合併頻度は一般集団における頻度と顕著な差はなかった。死亡時年齢60歳代の統合失調症症例の約30%に初老期発症の認知症症状が認められたが、認知症症状を説明しうる神経病理学的所見は乏しかった。これらの有意な神経変性疾患を認めない認知症症状を示す統合失調症症例群は、この疾患の特定の表現型と考えられた。さらに、その中の3例に関し、さらに詳細に臨床神経病理学的評価を行った。また、稀なゲノム変異を有する統合失調症では、GLO1フレームシフト変異を有する統合失調症において、白質及び神経細胞内の終末糖化産物の蓄積、 Tyrosine hydroxylase (TH)、Neuropeptide Y (NPY)陽性神経線維の形態変化(蛇行の増加やシナプス様の念珠様構造物の減少)、Nogo-A陽性オリゴデンドロサイトの密度減少を病理所見として確認していたが、これらの神経病理学的所見と臨床経過(生前の神経画像所見や知的能力、薬歴や薬剤への治療反応性を含む)との関連を検討した。
2: おおむね順調に進展している
2019年度は、まず、例数を増やすために死後脳の収集・蓄積を行う予定であった。また、生前の臨床診断、臨床経過、病前の社会適応、家族歴、神経画像等の臨床情報の収集を行い、それまで順次開始しつつあった、関連施設で収集した剖検脳の、詳細な臨床情報、精緻な神経病理学的診断情報のデータベース化をさらに推し進める予定であった。2019年度は関連施設において、20例の死後脳の収集・蓄積を行うとともに、CPCを12例前後行い、例数の増加、臨床情報と神経病理学的診断情報のデータベース化をさらに推し進めた。また、2019年度内に、データベースの情報を解析し、特定の臨床所見や臨床経過を有する群を表現型として抽出すること、抽出した群の脳組織において免疫組織学的に予備的観察を行うことを予定としていた。データベースを用いて生前の認知症症状および神経病理学的な神経変性疾患の頻度を検討し、その中から、有意な神経変性疾患を認めない認知症症状を示す統合失調症症例群を特定の表現型として抽出した。その中の3例に関し臨床神経病理学的評価をさらに詳細に行った。免疫組織学的には、GLO1フレームシフト変異を有する統合失調症において、白質及び神経細胞内の終末糖化産物の蓄積、 Tyrosine hydroxylase (TH)、Neuropeptide Y (NPY)陽性神経線維の形態変化、Nogo-A陽性オリゴデンドロサイトの密度減少を病理所見として確認していたが、これらの神経病理学的所見と臨床経過との関連を検討し、抗TH抗体、抗NPY抗体、抗Nogo-A抗体を用いて、統合失調症の病態に関連した特定の組織変化を同定できることを予備的に確認した。これらのことから、概ね順調に進展していると考えられる。
見出した特定の表現型の死後脳組織を免疫組織学的な手法を用いて観察を行う。2019年度内に見出した、有意な神経変性疾患を認めない認知症症状を示す統合失調症症例群に加え、神経画像上は大脳皮質の萎縮を認めるものの、神経病理学的には有意な神経変性疾患を認めない症例に関しても特定の表現型として見出しつつあり、さらに臨床および神経病理情報を整理したうえで、検討を行う。抽出した表現型の特徴によって免疫組織染色の抗体を検討するが、2019年度までにGLO1フレームシフト変異を有する統合失調症等において異常を見出してきたTyrosine hydroxylase、Neuropeptide Y、Nogo-Aに加え、Calbindin、Parvalbumin、MOG等を中心に免疫組織染色を行い、層構造における分布や各々の細胞のサイズ、神経線維長や線維構造等の形態変化を観察する。発症に強く関与する稀なゲノム変異に関しては、GLO1フレームシフト変異を有する統合失調症に加え、 22q11.2 欠失を有する統合失調症、MBD5欠失を有する統合失調症でも同様の免疫組織学的な観察を行い、形態学的所見を、見出した特定の表現型の死後脳組織で得られた結果と比較する。尚、データベース化の過程において、脳画像上、大脳皮質の萎縮を認めるが、神経病理学的には既存の変性疾患の所見を認めず、X染色体に大規模な重複を持つ統合失調症死後脳を同定している。重複領域には神経発達に重要な遺伝子が含まれている。遺伝学的背景が明確であり、免疫組織染色を行い観察すべき対象を、ゲノム情報から想定しやすい。表現型の群の解析で、十分な結果が得られない際は、本症例の皮質萎縮の組織病理学的背景を先ず明らかにする。
2019年度内に当初の計画より多くの新規の死後脳が蓄積された。そのため、一部の予算を次年度の当該脳の神経病理学的評価及び、当該脳の免疫組織染色に回すこととした。
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