研究課題/領域番号 |
19K17060
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山田 晋一郎 名古屋大学, 医学部附属病院, 医員 (60828375)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 球脊髄性筋萎縮症 / イオンチャネル / 寒冷麻痺 / メキシレチン塩酸塩 / 稀少疾患 / ドラッグリポジショニング |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)患者の寒冷下における運動障害の病態生理を解明し、運動機能に関連する客観的なバイオマーカーを指標として臨床試験を行い、本疾患患者の運動障害やADLの改善に寄与する薬剤を見出すことである。予備的臨床検討において、87.5%のSBMA患者はADLが低下するほどの寒冷麻痺を経験していることから、同症状に関連すると報告されているNaチャンネル(SCN4Aなど)およびClチャンネル(CLCN1など)の発現をRT-PCRおよびウエスタンブロットで解析した結果、SBMA患者の骨格筋ではClチャネルのmRNAおよび蛋白質の両者が低下していることが明らかとなった。また、患者における変化が疾患および病態特異的であることを明らかにするために行ったSBMAモデルマウスによる検討でも同様の知見を得た。Clチャンネルの発現・機能低下によりNa電流異常が生じることが知られているため、Naチャネルブロッカーの投与により骨格筋細胞膜の過興奮性が低下し、運動症状を改善できる可能性が分子生物学的にも示唆された。 本研究は、病態生理の解明と並行して寒冷麻痺のバイオマーカーとして予備的研究により見出した末梢神経伝導検査における「寒冷下の遠位潜時延長」を主要評価項目として、メキシレチン塩酸塩 300 ㎎/日及びプラセボを投与する多施設共同ランダム化二重盲検クロスオーバー比較試験を実施中である。研究代表者が中心となって被験者登録、検査、観察、評価を行い有効性、安全性を評価している。安全性の評価は、自他覚的随伴症状や血液検査および心電図検査における臨床検査値異常変動などの項目を評価している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の計画では、2019年度は細胞膜の過興奮性に関連するNaチャネルや静止膜電位の恒常性を保つClチャネルの発現について、モデルマウスならびにSBMA患者の筋組織を用いた蛋白質、mRNAレベルの解析を実施することで、骨格筋細胞膜における過興奮性の原因を明らかにする予定としていた。分子生物学的な検討の結果、モデルマウスおよびSBMA患者の骨格筋ではClチャネルのmRNAおよび蛋白質の両者が低下していることが明らかとなったため、Naチャネルブロッカーの投与により骨格筋細胞膜の過興奮性が低下し、運動症状を改善できる可能性があると考えられた。以上から、Naチャネルの阻害と同時に Kチャネルの開口によって活動電位の持続時間を短縮させることで骨格筋細胞膜の過興奮性低下が期待できること、また、神経筋疾患患者に対して用いられた実績があり長期内服の安全性が確認されていること、などを臨床試験実施の妥当性の根拠として「球脊髄性筋萎縮症患者に対するメキシレチン塩酸塩経口摂取の有効性及び安全性を検討する多施設共同ランダム化二重盲検クロスオーバー比較試験」を特定臨床研究として実施し、すべての被検者の組み入れが終了したことから、本研究は申請時の計画に沿っておおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は申請時の予定にしたがって全被検者の評価を完遂し、SBMA患者に対するメキシレチン塩酸塩経口投与の有効性および安全性を評価する。有効性の主要評価項目の解析集団は、Full Analysis Setと定め、寒冷前後における遠位潜時の差について、混合効果モデルを用いて検証する。また、安全性の主要評価項目の解析は、投与開始日以降の有害事象の発現率により、既報告との比較を実施する。以上、モデル動物やSBMA患者の生化学的研究を通じて明らかになった疾病の分子メカニズムと多数の患者レジストリーから得た神経症状のバイオマーカーを一元化した臨床試験を行うことにより、これまで実現しえなかったヒトの病態に即した新規治療法開発を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)データ入力者を雇用する予定であったが、コロナの影響で採用できなかったため。 (使用計画)令和2年度にデータ入力者の雇用に充当する予定である。
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