本研究の目的は、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)患者の寒冷下における運動障害の病態生理を解明し、運動機能に関連する客観的なバイオマーカーを指標として臨床試験を行い、本疾患患者の運動障害やADLの改善に寄与する薬剤を見出すことである。 予備的臨床検討において、87.5%のSBMA患者はADLが低下するほどの寒冷麻痺を経験していることから、同症状に関連すると報告されているNaチャネル(SCN4Aなど)およびClチャネル(CLCN1など)の発現をRT-PCRおよびウエスタンブロットで解析した結果、SBMA患者の骨格筋ではClチャネルのmRNAおよび蛋白質の両者が低下していることが明らかとなった。また、患者における変化が疾患および病態特異的であることを明らかにするために行ったSBMAモデルマウスによる検討でも同様の知見を得た。Clチャネルの発現・機能低下によりNa電流異常が生じることが知られているため、Naチャネルブロッカーの投与により骨格筋細胞膜の過興奮性が低下し、運動症状を改善できる可能性が分子生物学的にも示唆された。 病態生理の解明と並行して寒冷麻痺のバイオマーカーとして予備的研究により見出した末梢神経伝導検査における「寒冷下の遠位潜時延長」を主要評価項目として、メキシレチン塩酸塩 300 ㎎/日及びプラセボを投与する多施設共同ランダム化二重盲検クロスオーバー比較試験を特定臨床研究として実施した結果、メキシレチン投与時にALSFRS-R(全般的運動機能)が改善する傾向が認められ、同評価項目の構成要素である球症状、上肢症状、下肢症状に対応する、その他の評価項目として設定していた定量的運動機能検査においても、同様にメキシレチン投与時に改善する傾向が認められたことから、メキシレチン塩酸塩はSBMA患者の全般的運動機能を改善する可能性が示唆された。
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