神経性やせ症(Anorexia Nervosa)は,精神疾患の中で最も死亡率の高い疾患である。その臨床的特徴は重度の体重減少であり、様々な内科的合併症を引き起こし得る。再栄養初期には、インスリン分泌亢進による低血糖や長期のインスリン分泌不全による高血糖などの血糖変動が起こり得る。インスリン分泌は再栄養症候群の発症に関係すると言われており、血糖変動の詳細な観察と再栄養症候群の関連について検討した。入院したAN患者で重篤な再栄養症候群を起こしたものはいなかった。また、低リン血症など再栄養に伴う再栄養症候群の徴候を示唆する異常は時に見られたが、薬剤投与などで速やかに回復した。このため、これらの再栄養症候群徴候と血糖変動との関係は明らかとならなかった。一方で、ANの血糖変動障害は、(a)食事摂取により一時的に十分な血糖値が得られるが、それ以外の時間は低血糖、(b)日中は正常範囲内の血糖変動であるが夜間低血糖、(c)食事摂取に反応して高血糖になり食後低血糖の3パターンに分類された。そして、AN-BP患者における入院中血糖変動幅の指標の一つであるMAGE(mean amplitude of glycemic excursions)とBMIの間には、中程度の正の相関が認められた。再栄養症候群と血糖変動の関連は明らかにはならなかったが、AN患者における血糖値の変動は様々なパターンが考えられ、再栄養時に血糖値の綿密なモニタリングと低血糖を予防する戦略が必要であることが明らかとなった。今後も対象を外来患者に広げて更なる研究が必要である。
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