本研究の目的は、緊張病・悪性症候群患者を対象に、臨床的に有効な治療の前後で、神経伝達物質の代謝産物、炎症関連物質を探索的に 測定し、それらの変化を比較し、また、頭部MRIおよび脳波解析を行うことで、脳の構造的・機能的な変化についても解析することである。 これまでの先行研究は軽症例の横断研究にとどまってきたが、我々は悪性緊張病の症例で縦断的に頭部MRIで脳血流を評価し、自律神経中枢での顕著な過活動が悪性緊張病の病態に関わっていることを世界で初めて報告した。悪性緊張病の概念は古くから知られているが、近年は悪性症候群と類似の症状を示すことも多く、しばしばその鑑別に苦慮するが、同一の病像であると考える研究者もおり、十分にはわかっていない。 現在10例が組み入れられ、我々の過去の報告を支持する所見が得られている。また、治療前後の脳波、炎症関連物質についてもデータが蓄積している。 申請者の申請資格喪失のために今年度で若手研究の廃止となったが、本研究は継続してリクルートを行っている。これまでの研究は横断研究にとどまっており、縦断で、複数のモダリティで評価したものは本研究が初めてであり、緊張病の病態に迫るうえで重要な知見が得られると考えられる。緊張病の治療は経験的にベンゾジアゼピン系薬と電気痙攣療法が行われてきたが、その生物学的背景が明らかではない。また、緊張病はしばしば診断に苦慮して、診断されずに適切に治療されず致死的な病態になることも稀ではない。本研究により、精神疾患のなかで最も重症で致死的になりうる数少ない病態の一つである緊張病の病態が明らかになることは、精神科の臨床において重要である。
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