本研究は、マウスの腸内細菌叢の精神活動への影響について、宿主の認知機能特性に焦点を当て検証した。BALB/cマウスを、無菌(GF)マウス、および無菌マウスに病原体を保有していないマウスの常在腸内細菌叢を経口投与した (EX-GF) マウス群の2群に分類した。無菌状態を維持した環境下で認知機能特性の観察の報告はほとんどない。したがって我々は、認知機能特性評価について、無菌環境下のアイソレ ーター内で行う実験系の確立に、まず取り組むこととした。アイソレータ内での無菌を維持するための飼育や繁殖、その中で行動観察を行うための器具の製作を精緻に行った。認知機能特性評価のため、Y字迷路課題を使用し、自発的交替行動を測定し、短期記憶(空間的ワーキングメモリ)を観察した。8週齢のマウスで、それぞれの群で、無菌環境下で8分間、Y時迷路課題を行った。その様子をビデオ観察し自発的交替行動率を測定した。 GFマウスとEx-GFマウスでは、自発的交替行動率の明らかな差は見られなかった。以上の結果から、腸内細菌叢が、短期記憶に影響を及ぼす可能性が低いことが示唆された。本研究は、腸内細菌叢による精神活動や行動への影響を、飼育や繁殖が容易ではない無菌マウスを使用して明らかにしたところに、学術的意義がある。我々の研究では、腸内細菌叢が宿主の不安や攻撃性に影響を与えることを解明した。本研究では、腸内細菌叢が影響する行動特性、認知機能特性の細かなプロファイルを示唆した。この点は、腸内細菌叢の重要性を示唆し、重要な社会的意義を有する。
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