研究実績の概要 |
本研究の目的は、負の情動と関連した感覚刺激への注意選択を評価する行動実験系を開発し、セロトニン神経回路の関与を明らかにすることであった。マウスの摂餌制限後に餌を報酬として条件づけを行ったところ、報酬への欲求が強すぎるために、マウスが報酬に関連する光刺激に集中しすぎ、電気ショックと関連する音刺激に注意を引かれないことが明らかとなった。また、餌を報酬とした場合、摂餌制限自体がストレスとなることで注意選択が障害されている可能性も考えられた。そこで、これらの問題を解決すべく、新たに回し車の回転を報酬とした課題を設計し、その報酬効果と欲求について詳細な検討を行った。マウスは回し車を好んで回すことが知られており、実際に、穴に鼻先を挿入すれば回し車を回転できるような課題を設計したところ、頻繁に鼻先挿入を行うようになることを確認した。また、必要な鼻先挿入回数を1, 3, 5, 10と増加させたところ、マウスの鼻先挿入回数もそれに伴い増加した。まず、この手法を用いた注意選択課題を確立する前に、回し車回転行動を報酬とした場合の報酬効果および欲求発現の背景にある神経メカニズムの解明を試みた。その結果、ドパミン受容体阻害薬やセロトニン受容体阻害薬の全身投与により、回し車回転行動への欲求が減弱することが明らかとなった。今回の研究期間では、報酬を変更し、その報酬効果・欲求発現のメカニズムについて検討が必要であったこともあり、注意機能の評価までに至らなかったが、今後この実験系を用いることで、人間が日常生活で発揮するものと同程度の注意機能の評価につながると考えられる。
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