統合失調症の発症には遺伝的要因に加え、環境要因も関連することが知られるが、その詳細はいまだ不明な点が多い。申請者の先行研究では、熱ショックたんぱく質であるHSP70が統合失調症の病態に関わる有力な候補因子であることを突き止めた。本研究では、HSP70の遺伝子発現異常に着目し、神経系への影響を中心に、分子生物学的手法にて検討し、その作用機序を明らかにすることで病態の解明につながることを目的としている。 令和5年度は、HSP70における神経細胞特異的な伝達経路を解明するために、ヒト神経芽細胞腫に由来の細胞株であるSK-N-SH細胞を用いて、HSP70の安定発現細胞株を樹立した。そして、レチノイン酸による成熟ニューロンへの分化を行い、分化した安定的HSP70発現SK-N-SH 細胞とその対照細胞の遺伝子転写産物を抽出し、次世代シーケンサーを用いて、網羅的な発現解析を行った。 その結果、HSP70安定発現群では対照群と比較して炎症関連遺伝子の発現量増加が見つかった。具体的には、Guanylate Binding Protein 1 (GBP1)やSignal transducer and activator of transcription 1 (STAT1)などについて発現量増加を認めた。 これまでHSP70の生理的役割としては神経保護的に働くことが示唆されたが、本研究によりHSP70が神経細胞における炎症の制御に深く関わるという新たな側面を明らかにした。
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