研究課題/領域番号 |
19K17084
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
稲葉 洋芳 新潟大学, 脳研究所, 特任助教 (70793933)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | リスペリドン / 統合失調症 / キンピロール / 抗精神病薬 / 聴覚ミスマッチ反応 / 皮質脳波 / DREADD / ドパミンD2受容体 |
研究実績の概要 |
統合失調症のバイオマーカーとして期待されている脳波反応「ミスマッチ陰性電位(mismatch negativity: MMN)」は、感覚入力の予測誤差を反映すると言われている。ドパミン神経も外部刺激に対して活動応答することで予測誤差信号を伝達し、認知機能を調節する。近年、過剰なドパミン放出による予測誤差伝達の破綻が、統合失調症の発症要因の一つになっていると考えられているが、MMNに対するドパミンの役割はわかっていない。本研究では、MMNの神経基盤の一端を明らかにするために、ラットを用いてドパミン神経活動と聴覚MMNの関連性を検討することを目的としている。 昨年度に、中脳ドパミン神経の過剰発火を示すことが既に明らかになっている上皮成長因子(EGF)を新生仔期に投与した統合失調症モデルラットが、音長MMNの障害を示すことが示唆された。本年度は、この実験成果を国際論文として発表するために、コントロール実験などの追加データの取得および解析をおこなった。さらに、抗精神病薬でありドパミンD2受容体アンタゴニストでもあるリスペリドンの亜慢性投与によって、このMMN障害に回復が見られるか観察したが、ポジティブな結果は得られなかった。これらの成果はSchizophrenia Bulletin Open誌に最近発表された。 ドパミンD2受容体選択的アゴニストやアンタゴニストを用いた薬理学的な実験も進めた。覚醒ラットに対するキンピロールの全身性投与によって、音程MMNの前頭葉成分に障害が見られた。この成果も論文として発表するために、準備を進めている。中脳ドパミン神経特異的な影響を明らかにするために、化学遺伝学的(DREADD)実験もおこなった。現在、TH-Creドライバーラットの中脳ドパミン神経核にAAVベクターを用いてデザイナー受容体をドパミン神経特異的に発現させ、CNO依存的にドパミン発火を誘導した際のMMNの変化を解析している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
EGF統合失調症モデルラットの音長MMNの研究結果を国際論文として発表するという目標を達成できた。ドパミンD2アゴニスト投与によるMMNの変化を調べた実験についても、論文投稿準備が進んでいる。ドパミンD2アンタゴニスト投与実験についても成果がまとまりつつあり、MMNに対するドパミン活動の影響性が明らかになってきた。DREADD実験も進み、中脳特異的にドパミン発火を誘導した際のMMNデータを取得できた。
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今後の研究の推進方策 |
投稿準備が進んでいる音程MMNに対するキンピロールの全身性投与の影響を調べた実験結果を国際論文として発表する。ドパミンD2選択的アンタゴニストの全身性投与の影響を調べた実験結果についても、論文化を進め、投稿までもっていく。さらに、DREADDによりドパミン発火を亢進させた実験についても、データ取得はほぼ終わっているため、データ解析を進める予定である。MMN課題中のドパミン神経活動のユニット計測もできる限りおこないたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会において研究発表をおこなう予定であったが、コロナウイルス感染症の流行により、参加を取りやめたため、未使用額が生じた。そのため未使用額は研究成果を発表するための経費に充てる予定である。
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