研究実績の概要 |
現行のうつ病治療には薬物治療抵抗性を示す患者が一定数存在する。加えて、うつ病は認知症のリスク因子であることが知られてきているが、これらの背景にある病態は十分に解明されていない。本研究は、近年うつ病との関連性が示唆されてきている性ホルモンに着目し、うつ病の難治化および認知機能低下の機序を明らかにし、治療抵抗性うつ病に対する新たな治療法や認知症発症の予防法を確立することを目的とする。 これまでに、我々は、血清cortisol値やcortisol/dehydroepiandrosterone sulfate(DHEA-S)比、血清 Insulin-like growth factor 1(IGF-1)値がうつ病の重症度と相関し、cortisol、IGF-1がメランコリアや自殺リスクに影響することを明らかにした(J Clin Psychopharmacol, 2019)。また、我々は、男性うつ病患者の血清estradiol値が対照群よりも低値であり、抑うつ症状とestradiol値との間に負の相関関係があることを報告した(BMC psychiatry, 2021)。 さらに、我々は、IGF-1の増加がうつ病の治療抵抗性や治療反応性と関連することを横断研究ならびに縦断研究で明らかにした。これは難治性うつ病患者の病態や治療法確立の第一歩となる非常に意義のある研究であり、第116回日本精神神経学会学術総会で報告を行い、優秀発表賞を受賞した。この結果に加え、令和3年度の研究成果から、治療抵抗性うつ病は寛解群で認められたDHEASの減少がなく、ベースラインの血清DHEAS値が高いほうが抑うつ症状の改善が得られにくいことがわかった。血清IGF-1ならびにDHEAS値は、うつ病の治療抵抗性を予測する因子となり得る可能性が示唆され、これらの成果についても、論文を作成中である。
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