本研究では、lncRNAがエピジェネティックな機能を介してうつ病の病態に関与しているのではないか、という仮説のもと、白血球におけるlncRNAの発現変化がうつ病のバイオマーカーになりうるかを検証した。定量的逆転写リアルタイムPCR(RT-PCR)分析を用いて、大うつ病性障害患者(MDD患者)と健常者の末梢血白血球における発現量を比較検討した。解析対象のlncRNAはこれまで腫瘍や神経疾患など、その機能の一部がすでに報告されているlncRNAのうち83種類を選択した。焦点を絞ったターゲットを分析することで、うつ病の病態生理に特有のlncRNAを検索し以前の研究から得られた知見に基づいてその機能の洞察を深めることを目指した。うつ状態のMDD患者29名と健常者29名の末梢血白血球における種々のlncRNA発現解析を行った。健常者と比較して、MDD患者ではRMRPの発現が減少しており、Y5、MER11c、PCAT1、PCAT29の発言が増加していた。RMRPの発現レベルは、ハミルトンうつ病評価尺度によって測定されるうつ症状の重症度と負の相関を認めた。さらに、コルチコステロンを投与したうつ病モデルマウスの末梢血白血球においてもRMRP発現はコントロールマウスと比較して減少しており、これはヒトと同様の結果であった。RMRPは、核、リボソーム、ミトコンドリアにおいて多彩な機能を担っており、これらを含む細胞小器官を繋ぐ重要なハブとして働き、ストレスや気分の調整に関与している可能性が示唆された。 また、新たに収集した別患者サンプルにて再検証したところ、RMRPについて上記と同様の結果が得られた。うつ病に関与する候補遺伝子としてRMRPはより有力と考えられ、うつ病の病態解明において更に前進した。これらの研究成果を論文として報告した。
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