研究実績の概要 |
本研究では、Hamamatsu Birth Cohort (HBC) Study に参加する児を対象に、9歳時にMRSを用いて測定された聴覚野の E/I balance の不均衡が感覚の過敏さに関連するか、そして幼児期(18ヶ月)の感覚に対する敏感さが、学齢期の E/I balance の不均衡を予測するかどうかを検討すること、聴覚野における E/I balance の不均衡は言語機能と関連するかどうかを検討することを目的としている。現在、HBC Studyに参加する734名について、9歳時の言語機能について、Wechsler Intelligence Scale for Children-Fourth Edition (WISC-Ⅳ)を用いた測定とデータ入力を終えている。幼児期の感覚の敏感さについては、Early Childhood Behavior Questionnaire (ECBQ) の下位尺度であるperceptual sensitivityを用いて既に18ヶ月時に測定済みである。WISCとperceptual sensitivityの両者について測定データのある710名について関連を解析した。解析では児の性別、出生体重、在胎週数、両親の年齢、教育歴、世帯年収で統制している。解析の結果、18ヶ月の感覚の敏感さは、WISCの下位検査のうち、言語理解、知覚推理と有意な関連を示した(それぞれβ=0.13, p=0.001, β=0.10, p=0.02)。一方でワーキングメモリー、処理速度とは有意な関連を示さなかった(それぞれβ=0.06, p=0.17, β=-0.04, p=0.39)。WISCの4つの下位検査のうち、言語理解と知覚推理の2つは“一般的知能”の指標とされている。これらのことから、幼児期にみられる感覚に対する敏感さは、学齢期のWISCで測定される一般知的能力を予測すると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
小児期の聴覚野の E/I balance について、MEGA-PRESSシークエンスを用いたプロトン磁気共鳴スペクトロスコピー(1H-magnetic resonance spectroscopy: 1H-MRS)計測を行う。取得されたMRSデータに対しLCModel(Stephen Provencher Inc., Oakville, Canada)を用いて領域内のスペクトル解析を行い、GABA、グルタミン・グルタミン酸 (Glx) の濃度を算出してE/I ratioを計算する。同時に小児期の感覚特性について、音の弁別閾を決定する課題を実施するとともに、日本版感覚プロファイルを用いて児の感覚特性について保護者に質問する。これらのデータを用いて、聴覚野におけるE/I balanceに関するデータが、(1) 音の弁別閾と関連するか、(2) 保護者評定による感覚特性と関連するか、(3) 18ヶ月時の perceptual sensitivity のスコアと関連するか、それぞれ解析を行う予定である。
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