自閉スペクトラム症(ASD)は社会的コミュニケーションの困難さ、柔軟性の欠如を特徴とする神経発達障害である。ASD患者は幼少期からネグレクトや虐待などの逆境体験を経験しやすい。これらを背景とした心的外傷後ストレス障害(PTSD)様症状の合併は、ASD患者の社会適応を困難とする。これまでASDのPTSD様症状の病態基盤は明らかにされておらず、明確な治療方法が存在しない。本研究の目的は、ASDのPTSD様症状の原因となる脳構造・機能異常を解析し、その病態を明らかにして、生物学的な基盤に基づく疾患の理解と治療の確立を目指すことである。H31年、R2年度にはASD及び定型発達(TD)群の募集を行い、MRI検査および認知機能、PTSD症状様症状や感覚過敏といった精神症状、幼少時体験の重症度を中心とした臨床症状評価を行った。MRI画像データはT1強調画像から得られた脳灰白質データと拡散強調画像より得られた白質データについて解析し、PTSD様症状を中心とした臨床症状データとの関連性について、ASD群とTD群の比較を交えて解析を行い、PTSD様症状と関連する脳領域の同定や白質微小構造障害などについての検討を行った。R3年度にはPTSD症状の侵入思考の重症度と楔前部の灰白質容積の低下の関連性についてAutism Research誌に発表した。また、ASD群における幼少時体験の重症度と前視放線の白質微小構造障害の関連性についてFrontier in Psychiatry誌に発表した。R4年度にはASD群における感覚過敏の重症度と上側頭回の神経密度との関連性についてJournal of Psychiatric research誌に発表した。R5年度にはASD群におけるPTSD症状と関連する脳領域における神経突起密度の異常の関連性についてFrontier in Psychiatry誌に発表した。
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