研究課題
本研究は「老年期精神障害」と従来総括される高齢者の不均一な臨床表現型に関し、「レビー小体病」を背景病態にもつ一群を臨床的に抽出することを目的としている。国際的視点からも「老年期精神障害」はレビー小体型認知症の前駆状態として極めて重要なことが認識され、国際ワーキンググループがpsychiatric-onset dementia with Lewy bodies(DLB-psych)という亜型を2020年に提唱している(Neurology; 94: 743-55)。研究代表者は2022年度にInternational Lewy body dementia conference(英国ニューカッスル開催)にて本研究の成果である「レビー小体病を背景病態にもつ老年期初発躁病」に関して発表し、国際誌に掲載された(Bipolar Disorders, doi: 10.1111/bdi.13200.)。この検討は、レビー小体病の病態を示唆・支持する画像バイオマーカー所見を示す高齢者躁病エピソード症例があることを初めて明確に示したもので、「老年期躁病」症例の一部がDLB-psychである可能性を明らかにすることができた。またDLB-psychに関連して2021年度に国際学会(Regional IPA/JPS Meeting)で発表した「レビー小体病性の退行期メランコリー症例」に続き、2022年度は退行期メランコリー入院症例について臨床的特徴の解析中である。症例の病像に関する付加的要因については構造分析や意識と精神症状との関連性への考察を行い、精神病理学的検討も進めている。外来初診時のレビー小体病前駆症状特徴について、疑診例に関してはフォローアップを行い臨床表現型の変化を追っており、臨床パラメータの経時的変化について検討を行う予定である。
3: やや遅れている
主要因は、前年度から継続したコロナ禍であった。コロナ禍以降、通院が途切れたフォローアップ対象者について、通院の再開が実現出来た症例はごく限られてしまった。感染対策上の観点からその中断を克服しがたい点があり、当初の予定よりも経過を追える対象数が減っている。また、研究代表者の勤務地異動に伴い、FDG-PETの撮像条件を満たすことが困難となっている。本研究の対象者について、精密検査目的にて該当医療機関を受診する受診フローを計画したが、コロナ禍下にてその計画履行は実質的に困難な状態である。研究立案時点でパンデミックは想定していなかったため、この点に関して想定外の事態となった。困難な状況であることは事実だが、次項「今後の研究の推進方策」に述べるような次善策として対処し、本研究の趣旨を進捗させるよう計画を進行している。
コロナ禍の完全終息には世界的にまだ時間を要する。本研究はハイリスク群である高齢者が研究対象者であるため、計画推進はより一層の注意が必要である。学術的側面の希求以前に、感染対策・安全確保が第一であることを厳に留意せねばならず、この状況下で実現可能な研究推進を検討する必要がある。医療機関間での移動が現実的には困難であることを鑑みて、研究代表者が現在所属する医療機関(聖マリアンナ医科大学病院)における対象症例別については、同機関で実施可能な画像モダリティ(IMP-SPECT等)を用いた臨床的特徴の検討を行い、得られた知見を学会発表や論文作成に活かす予定を組み、現在進行中である。初年度において集積した症例は、順天堂東京江東高齢者医療センターにおいてフォローアップが継続可能な症例について、当初の予定通りに縦断的変化の評価・検討を行い、得られた知見を学会発表や論文作成に活かす予定である。
コロナ禍および研究代表者の異動により、本研究の対象者に対してFDG-PET検査を実施するフローの構築が困難となった。そのためFDG-PET検査施行件数が増えず、同検査に伴う研究費使用額は大幅に減ることとなった。現況を鑑みてIMP-SPECT検査実施例についての臨床評価内容の検討を行う計画である。解析に際して研究補助者に一部の用務を依頼する。また得られた成果について学術集会での発表、論文化を進める予定である。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件)
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