研究課題/領域番号 |
19K17121
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
千葉 比呂美 久留米大学, 医学部, 助教 (60648137)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 怒り / 攻撃性 / Complex PTSD |
研究実績の概要 |
Complex PTSDを含むトラウマ関連疾患患者では,怒りといった感情表出の問題をはじめとして幅広い症状を抱えている。そこで,感情以外の症状を含む精神症状の幅広さについても検討することとした。具体的には,オランダのOlffらが開発した,トラウマ体験者を対象としたスクリーニング用自記式質問紙であるthe Global Psychotrauma Screen(以下GPS)の日本語版作成を試みた。58名のDomestic Violence他トラウマ症状を持つ割合の高い被検者群を対象に調査を行った。その結果,被検者ではPTSD症状以外に罪責感,無価値感,怒り,不安,うつ,アンヘドニア等幅広い精神症状を持っていることが示された。GPS総得点はPTSD,うつ,不安の症状尺度と高い相関を示した。性被害体験や性的いやがらせを受けた群や,小児期に身体的虐待を受けていた群では,そうでない群と比較してGPS総得点やPTSD,ComplexPTSDサブドメイン得点が有意に高かった。そのほか,599名の精神科看護師における暴力と怒りの関連についても調査を行っており,暴力を受けている群では心的外傷後の怒りを示す尺度であるDAR-5の得点も高いという結果となった。本研究課題では怒り・攻撃性がcomplex PTSD症状に及ぼす影響を研究しているが,この研究目的に即してみても,上記2つの研究は怒りとComplex PTSD症状との関連をみる貴重な機会となった。いずれの研究成果も既に英文誌に出版されており,国内でも複数の学会発表にて成果を公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画では怒りに特化した尺度開発を計画していた。しかしながら,研究の進展に伴って怒りに特化した尺度ではなく,Complex PTSD患者の持つ精神症状の幅広さに着目することとし,Global Psychotrauma Screen (GPS) という尺度を用いた調査研究に取り組むこととなった。その出版にあたっては海外研究者とも国際共同研究の形をとることができた。また,精神科看護師を対象とした別の調査研究においても,Posttraumatic Angerに関する尺度を用いることができた。こうした点を考慮し,当初の計画以上に本研究課題は進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
怒り・攻撃性がcomplex PTSD症状に及ぼす影響について研究を進め,実績も挙げてきた。しかしながら,こうした研究成果の重要性について十分周知・広報できていないのではないかと考えている。そこで,今後の推進方策として,Webシンポジウムの形でcomplex PTSDと怒り・攻撃性との関連をはじめとしたcomplex PTSDと関連する様々な問題(例えば嗜癖の問題)について紹介することとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実績としては順調に成果を上げていると考えている。新型コロナウイルス感染症の影響で国内学会,海外学会ともにWeb開催となり,旅費支出がなかったことで次年度使用額が生じたと考えている。翌年度分として請求した助成金と合わせ,研究実績の周知のための活動に重点をおいて使用する予定である。
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