研究実績の概要 |
WDR3遺伝子は、先行研究の分子遺伝学的研究において、女性の統合失調症との関連が認められた新規の統合失調症関連遺伝子である (Kobayashi et al., PLoS One, 2018)。しかし、WDR3遺伝子は、性差を含む統合失調症メカニズムとの関連性だけでなく、中枢神経系における役割自体も明らかにされていない。そこで、申請者は本研究課題において、WDR3の中枢神経系での発現と機能、さらに発現変化による神経機能への影響を明らかにするとともに、性別因子の関与を検討することで、統合失調症の女性に特異的な分子病態の解明を目指している。 βガラクトシダーゼをレポーターとして有するWDR3ヘテロノックアウト (WDR3-HKO) マウスの脳における発現分布をX-gal染色で調べたところ、WDR3は海馬をはじめ脳に広く発現していることが確認され、特に海馬CA1で高いβガラクトシダーゼ活性が認められた。そこで、海馬に着目をして統合失調症で発現変化が報告されている分子 (NR1, NR2A, NR2B, Parvalbumin, GAD67, Reelin, CNPase, MBP, Calretinin, Calbindin) のmRNA量をreal-time PCR法を用いて解析を行った。その結果、WDR3-HKOマウスの海馬においてNMDA受容体NR2A及びNR2Bサブユニットの発現量が減少していることが明らかになり、WDR3が海馬依存的な認知機能へ影響している可能性が示唆された。 統合失調症における認知機能障害は、幻覚や妄想などの陽性症状、感情鈍麻や意欲減退などの陰性症状に並び、疾患の主要な症状の一つである。本研究で得られた結果は、認知機能障害を念頭に置いた統合失調症研究を進める上で重要な手がかりになるものと考えられる。
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