研究課題/領域番号 |
19K17125
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
小川 眞太朗 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 行動医学研究部, 室長 (00756984)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | プラズマローゲン / エタノールアミン / 精神疾患 / バイオマーカー / FDG-PET / 脳脊髄液 / ラット / 前臨床研究 |
研究実績の概要 |
本課題はプラズマローゲン摂取による精神疾患の新たな治療法の可能性を検討するため、精神疾患モデルラットを用い、対照群と精神疾患モデル群、0.1%重量プラズマローゲン添加飼料投与を行なった精神疾患モデル群との間で行動試験や各種解析を実施する前臨床研究である。 まずは多様な精神疾患様行動を誘発する社会的隔離ストレスを負荷したラットで各行動試験を行なった結果、ストレス負荷による有意な行動変容は観察されなかった。このことから、我々は多様な精神疾患様行動を引き起こすことが知られ、多くの先行研究でも用いられているリポポリサッカリド (lipopolysaccharide, LPS) 投与モデルにおける検討を併用し、① 通常飼料を投与し生理食塩水を7日間腹腔内投与した群・② 通常飼料+7日間LPS投与群・③ 0.1%プラズマローゲン添加飼料+7日間LPS投与群、の3群を設定しての計画へと変更した。 これらのラットで2019年度に行動解析を実施した結果、群間の結果に差異を示す傾向が認められた。また、プラズマローゲン摂取についての抗うつ様作用を検討し前臨床でのエビデンスを構築するため、[18F]Fluorodeoxyglucose (FDG) をトレーサーとした陽電子断層撮像 (positron emission tomography, PET) の実施も本計画には含まれているが、上記①~③の3群について、[18F]FDG の脳部位ごとの取込みについての検討を行なったところ、行動解析結果と同じく群間での差異の傾向が示されたものの、統計的に有意な差を見るまでには至らなかった。 細部の条件を見直しつつ再実験を行なう予定であるが、2020年度はコロナ禍のため研究環境も大きな影響を受け十分な実験活動を行なうことができず、このたび1年間の研究実施期間延長の運びとさせて頂くことを認めて頂いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
社会的隔離ストレス負荷モデルにおいては、動物のグループセットによる行動解析結果のばらつきが非常に大きく、その状況を踏まえて急きょ異なる精神疾患モデルも併用しての検討に切り替えたため、その準備のために想定していたよりも多くの時間を費やす結果となった。また、併用する精神疾患モデルとしてのLPS投与モデルの諸条件の検討についても、想定以上の時間を費やす結果となった。 しかし、これまでの検討結果において有意傾向を示す結果は得られており、より細部の条件を見直した研究実施計画の策定を行ない、実施のための準備を進めた上で、2020年度に結果をまとめる予定であった。 ところが、2020年度はコロナ禍のため研究環境も大きな影響を受け十分な実験活動を行なうことができなかったことから、このたび1年間の研究実施期間の延長を申請させて頂く運びとなり、研究課題を継続させて頂くこととなった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究実施の方向性として、まずはLPSを用いた実験系の細部の条件を見直し、対照群・精神疾患モデル群・プラズマローゲン添加飼料投与+精神疾患モデル群の3群間で、行動解析およびFDG-PET解析において統計的に有意な差異を見いだせるか否かを検討する。そののち、赤血球膜・血漿・脳組織中のプラズマローゲン濃度の比較を行なう。さらにそれらのプラズマローゲン濃度と脳脊髄液中のエタノールアミン濃度の相関を解析する。また、精神疾患の機序に関連すると示唆されているモノアミン系神経伝達物質の代謝物である5-HIAAおよびHVAや、炎症性サイトカイン類のCSF中濃度の解析を行ない、それらの群間での変化や体内のプラズマローゲン動態との関連を明らかにする。以上により、プラズマローゲンに着目しての精神疾患様行動に関連する機序の検討や、バイオマーカーとしての有用性の検討、そしてプラズマローゲン摂取による精神疾患の新しい治療法の可能性の検討を行なう。 次に、向精神作用とプラズマローゲンの動態の関連を確認し、生体内プラズマローゲンの精神疾患バイオマーカーとしての有用性についてさらなる検討を行なう。具体的には、精神疾患モデルラットに対し、抗うつ薬または抗不安薬、脂肪酸アミド水解酵素 (FAAH:内因性カンナビノイド代謝酵素) の阻害剤を投与し、これらの動物において行動解析を行なうとともに採取した試料から赤血球膜・脳組織中のプラズマローゲン量を測定し、体内のプラズマローゲン動態と向精神作用との関連を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在までの進捗状況の項でも述べたとおり、2020年度はコロナ禍のため研究環境も大きな影響を受け十分な実験活動を行なうことができず、当初使用予定であった研究用品・試薬・動物の購入費用については限定的なものとなり、未使用額が生じることとなった。1年間の研究実施期間の延長が認められたことから、こちらの表にある次年度使用額については、今後の研究実施に使用するために必要な動物(ラット)・試薬(LPSほか)・解析用の試薬および実験用品の購入のために物品費の名目として用いさせて頂く予定である。また、学会発表や論文出版のために、旅費およびその他の名目としても使用させて頂く予定である。
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