研究課題/領域番号 |
19K17128
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
漆原 佑介 東北大学, 医学系研究科, 助教 (30722269)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 低栄養 / 放射線 / AMPK / ATM / DNA-PK / FOXO3 |
研究実績の概要 |
がんの放射線治療時には、低酸素環境のがん細胞が放射線抵抗性を示すことが問題となるが、臨床的な低酸素環境は必ず低栄養状態であることから、低栄養環境における放射線抵抗性獲得メカニズムの解明が重要である。これまでに研究代表者らは、低栄養環境におけるAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)によるDNA修復酵素ATMの活性制御が放射線抵抗性に重要であることを明らかにしているが、低栄養環境におけるAMPKを介した放射線抵抗性獲得の分子メカニズムについては未だに明らかとなっていない。 本年度は、低栄養環境下でAMPKによって活性化される転写因子FOXO3に着目し、低栄養環境におけるFOXO3とATMの関係性の解析、FOXO3機能阻害による放射線抵抗性を解析した。その結果、低栄養環境下では、FOXO3がATM発現量及び活性化を制御すること、加えてFOXO3がATM同様にPI3K-related protein kinaseに属するDNA修復酵素DNA-PKの活性化も制御していることが明らかとなった。また、FOXO3とDNA-PKの関係性を解析したところ、興味深いことに低栄養環境下ではDNA-PKがAktやMST1を介してFOXO3活性化を制御していることが明らかとなった。 これらの結果より、低栄養環境においてFOXO3が放射線抵抗性に重要な機能を持つこと、またFOXO3、DNA-PKが互いに活性化しあっていることを初めて明らかにした。今後は、低栄養環境におけるFOXO3とATM、DNA-PKの関係性と放射線抵抗性への寄与をより詳細に明らかにすることで、臨床的低酸素環境における放射線抵抗性獲得メカニズムの解明へとつながることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、低栄養環境においてAMPKとATMをつなぐ因子としてFOXO3を同定した。また、FOXO3がATMだけでなくDNA-PK制御にも関与していること、その制御にAktやMST1が関与していることを明らかにした。低栄養環境におけるFOXO3とDNA-PKの関係性を初めて明らかにしたことは、低栄養環境における放射線抵抗性獲得メカニズム解明に向けて非常に意義深い成果である。 これらの結果は、研究計画における本年度目標であるATM活性化因子の同定をクリアしていることから、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果として、低栄養環境下ではAMPKがFOXO3を介してATM、DNA-PKを制御していることを明らかにした。今後の研究の推進方策として、当初の研究計画通り、FOXO3およびATM、DNA-PKが低栄養環境においてどのように放射線抵抗性に関与しているのかを解析するために、それぞれの因子の機能阻害もしくは活性化処理後の放射線照射による細胞周期変化、DNA修復能、細胞死誘導の解析を行う。ATM、DNA-PKともにDNA損傷応答機構において初期段階で活性化し、様々な因子を活性化させることで各DNA損傷応答経路を誘導することが既に明らかとなっている。そこで、DNA損傷後にDNA-PK、ATMに制御される因子を中心に、低栄養環境下でFOXO3に制御される因子の探索と、それら因子の機能阻害における放射線抵抗性への影響を解析することで、低栄養環境における放射線抵抗性獲得分子メカニズムを解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:候補因子の探索が想定よりもスムーズに進んだために、抗体や試薬等の消費を抑えることができた。 使用計画:低栄養環境における候補因子の活性状態の解析、またDNA損傷応答各経路の解析のために、以下の消耗品を使用予定である。 タンパク質検出に係る抗体やメンブレン類、細胞培養実験に用いる新規細胞株、培養液、ディッシュ、ピペット等の細胞培養関連製品に加え、siRNAの作成・購入、阻害剤の購入といった消耗品を想定している。また、学会参加や打ち合わせ等の出張に伴う旅費、その他、論文投稿に係る英文校正や投稿料などが見込まれる。
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