研究課題
胎児発育不全(fetal growth restriction:FGR)は、胎盤の虚血、低酸素を成因とし、胎児への持続的な低酸素暴露により発育が抑制されるが、胎盤、胎児の酸素濃度の変動を直接測定する方法は確立していない。我々は、ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬のタダラフィルがFGRに効果があることを見出し、基礎研究・臨床研究を実施し、妊娠延長と胎児発育の改善が観察された。本研究では、functional magnetic resonance imaging(fMRI)を用いたblood oxygen level dependent(BOLD)効果を応用し、FGR妊婦を対象に、胎盤、胎児の酸素濃度の変動を直接測定できる方法を確立し、その後、タダラフィルのFGR治療法の効果に関して検討することを目的としている。対象妊婦は、20歳以上45歳未満で、妊娠20週以上、FGRを発症した妊婦(推定体重-1.5SD以下)である。対象群は、同年齢の合併症のない正常妊婦とした。妊娠中期(20週~28週)に、BOLD法を用いたfMRIを、少なくとも一回行い、胎盤の酸素濃度の変動を測定した。評価項目は、 curve、peak ΔR2*、time to peak ΔR2*、Slope of time-ΔR2*であり、各々、酸素化の感受性、酸素取込み能、その比である。次に、タダラフィルのFGR治療法確立のための研究として、妊娠20週から34週未満のFGR症例を対象に、タダラフィル の投与前と投与後の最も血中濃度が高いと考えられる4時間後において、本研究方法を実施し、治療効果について検討した。また、子宮動脈血流量に与える影響を検討するために、2D-Phase contrast法で投与前後の血流量測定を行った。今後、対象の生化学マーカー(sFlt1、 PlGF)を検討予定としている。
2: おおむね順調に進展している
正常27人42例(正常群)・胎児発育遅延(FGR;fetal growth restriction)症例7人14例(FGR群)に胎盤fMRIを施行した。評価項目である①peak ΔR2*、②time to peak ΔR2*、③Slope of time-ΔR2* curveは、正常群で①0.048±0.022②8.71±1.45③473.2±46.6秒、FGR群で①0.024±0.018②5.88±1.41③455±77.8秒であった。FGR群で②が低下していることから、酸素の感受性が正常群に比べて低下している可能性が示唆された。また、③が短縮していることから、酸素取り込みが亢進している可能性が示唆された。次に、FGR群に対してタダラフィルを投与して約1週間後に撮像したMRI検査では、それぞれ①0.034±0.016、②5.13±1.83、③438±74.44秒であった。②および③はそれぞれ低下・短縮していた。酸素取り込みがタダラフィル内服により、亢進している可能性が示された。その比である①は正常に近づいている可能性が示された。②の酸素の感受性が低下していることについては、我々の仮説と矛盾する結果となっている可能性があり、引き続き検討を行う必要がある。また、このFGR群7例と、週数をマッチさせた正常妊婦7例の両群に、約1週間の期間をおいて2回子宮動脈血流量の測定を行った。子宮動脈血流量の平均値は、FGR群の内服前後で563±198ml/minから655±238ml/minと有意に増加し(p=0.007)、正常群では、878±178ml/minから944±209ml/minで有意差を認めなかった(p=0.051)。タダラフィル投与にて有意に子宮動脈血流が増加したことが示唆された。
これまでの研究では、酸素化に伴う胎盤信号の変化の経時的変化を波形として評価していたが、①peak ΔR2*、②time to peak ΔR2*、③Slope of time-ΔR2* curveの3項目について定量化することで、結果について、より比較しやすくなったことがあげられる。今後は各症例間だけでなく、同一症例での胎内治療等の効果判定に応用できる可能性がある。また出生した児の体重や胎盤重量、発育指数との相関関係を明らかにすることで、分娩前の胎盤機能評価としてMRIの有用性が期待される。これまでの問題点として、FGR群は子宮収縮が多く、BOLD値の解析が難しいことが分かった。子宮収縮が多いこととFGRとの関係については知見が乏しく今後検討を行っていく必要がある。次に、本研究を通して得られた知見として、MRIを使用すれば子宮動脈血流量、臍帯静脈血流量などを評価できるという点がある。これまで直接的に子宮動脈本幹の血流や臍帯静脈血流量を計測した研究はなく、これらの評価を同時に行うことで、さらに精度の高い胎盤機能評価を行うことができる可能性がある。また、当初の計画にあったBiomarkerの情報を追加することで、より客観的な胎盤機能の評価ができる可能性があり、近年胎盤領域で注目されているsFlt-1およびPlGFの測定を検討項目に加え、さらなる検討を行っていく予定である。
本研究では、functional magnetic resonance imaging(fMRI)を用いたblood oxygen level dependent(BOLD)効果を応用し、FGR妊婦を対象に、胎盤、胎児の酸素濃度の変動を直接測定できる方法を確立し、その後、タダラフィルのFGR治療法の効果に関して検討することを目的としている。FGRの原因となる妊娠高血圧症候群などの疾患では、生化学マーカー(sFlt1、 PlGFなど)の変化が報告されており、本研究でも対象について測定、検討予定としている。本年は、これら生化学マーカーを測定する準備が整わなかったため、測定することが出来なかった。また、論文作成が遅れてたため、投稿費、校正費が不要であった。以上より、次年度使用額が生じたが、来年度は生化学マーカーを測定する準備が整ったため、キットの購入費や論文の投稿費、校正費に使用する予定である。
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