研究課題
本研究では、血中の主な遊離チオール源である血清アルブミンに着目し、その酸化度ががんの放射線治療効果に影響を及ぼすか否かを検証した。結果として、がん症例において放射線治療開始前の血清アルブミンの酸化度は、放射線治療の効果を予測する有意な因子とはならないことが分かった。多種のがん細胞株を用いた放射線照射後の細胞生存解析の結果においても、一部の細胞株では血清アルブミンの酸化の強弱によって有意差が認められたが、ほとんどの細胞株において、血清アルブミンの酸化の強弱が放射線治療後の細胞生存割合に影響を及ぼすことはなかった。以上の結果は、血清アルブミンの酸化度は放射線治療の殺腫瘍効果に影響しないことを示唆している。そこで次に、血清アルブミンの酸化度と遠隔転移との関連についての検証を行った。膵がん症例の臨床検体の解析において、血清アルブミンの酸化が強い症例、つまり還元型血清アルブミンの血漿濃度が低い症例では、同濃度が高い症例と比較し、遠隔臓器への再発が多く、生存期間が短縮することが分かった。還元型血清アルブミン濃度が低い症例では、遠隔転移形成を促進することで知られる好中球細胞外トラップ(Neutrophil extracellular traps [NETs])が多く検出された。以上の結果より、血清アルブミンの酸化は、NETsの形成促進を介した膵がんの遠隔転移の促進に貢献していることが示唆された。また膵がんの新規治療薬となり得る薬剤として、5-(N-ethyl-N-isopropyl)-Amiloride(EIPA)が基礎研究領域において注目されているが、EIPAは非炎症性にNETsを誘導する事を新たに見出した。この結果は、EIPA投与時にNETsを介した遠隔転移が促進される可能性があり、DNAse I等の併用によるNETs生成阻害の重要性を示唆するものである。
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Redox Biology
巻: Accepted on April 19, 2021 ページ: accepted