研究課題/領域番号 |
19K17139
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
西川 遼 神戸大学, 医学部附属病院, 医員 (80736835)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 小線源治療 / brachytherapy / 画像誘導小線源治療 / IGBT / 人工知能 / AI |
研究実績の概要 |
子宮頸癌に対する小線源放射線治療は、かつて主力であった2次元計画に代わってCTを用いた3次元計画が一般的となり、さらに今日ではMRIを用いた画像誘導adaptive小線源治療も普及しつつある。治療の精度が飛躍的に向上する一方で、医療に要求される質も上昇し、時間的コスト・労力的コストの増大に繋がっている。特に、MRIを用いた画像誘導放射線治療においては、標的やリスク臓器の正確な輪郭入力が治療の質を左右する重要なプロセスであるが、このプロセスの質は術者の技量(疲労や焦燥による修飾も含む)や経験によって大いに左右される上、多大な時間的・労力的コストも必要となる。 一方、近年情報工学分野においてはAI(人工知能)の目覚ましい発展が取り沙汰され、さまざまな分野への応用が始まっている。 このAIを、画像誘導小線源治療の輪郭入力作業のプロセスのサポートに用いることで、画像誘導放射線治療のさらなる質の向上を目指すのが本研究の目的である。 研究1年目は主に機械学習に関する知識・技術の習得に充てることとなった。近年の機械学習の発展の立役者である深層学習(Deep learning)、その一つの応用であるConveolution neural network (CNN)、およびそれを実装するためのde facto standardと言えるプログラミング言語Python、Pythonにおける主力の深層学習フレームワークであるKerasの使用法を、主に日本メディカルAI学会や他大学主催の放射線治療人工知能研究会などで学習した。現時点で、AIの教材として提供されているサンプルデータに対して、輪郭抽出作業を行うAIを作成し様々に試行錯誤を行う程度の知識・技術を習得することができており、今後はこれを実臨床で用いられるDICOM-RTデータを用いて行っていくことになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現時点で、症例の集積は概ね当初の想定通りに進んでいる。引き続き症例の収集は続ける。 人工知能の開発のための技術習得については、関連学会・研究会への参加によりこれも概ね想定通りに進んでいるが、一部で難渋している。 人工知能自体の設計・制作については情報・環境などを含む学習者向けのリソースが豊富に提供されており、習得のための支障は少ない。ただし、広く公開されているリソースの多くは2次元画像を扱うものであり、本研究の目指す3次元データ上での輪郭抽出作業のためには、さらなる情報収集や検討が必要となる。 一方で、医用画像の扱い、具体的にはDICOM-RT形式のデータの読み込み方・書き出し方や治療計画装置との連携についての情報は少なく、情報収集に難渋している。 またその過程で、当初想定できていなかった幾何学的な課題(“Point-in-poly problem”など)にも対処する必要性があることが判明し、この点も今後の課題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
深層学習による機械学習においては多量の学習用データが要求されるため、今後も引き続き症例を集積していく必要がある。 現時点では2次元かつ汎用画像形式であるデータを入力とした学習を行うことしかできておらず、今後は3次元かつ医用画像形式(DICOM-RT)のデータにて同様の作業を行えるようプログラムをアップデートしていくことが必要である。そのために、関連学会や研究会への参加を通してさらなる技術の習得が必要である。 また、目的に応じて最適な深層学習モデルや最適化(学習)アルゴリズムは異なるため、繰り返しの試行錯誤が要求される。自前の試行錯誤に加え、先行研究・関連研究の結果を収集する必要がある。 臨床の現場での負荷削減に寄与するためには、AIによって生成した輪郭データを放射線治療計画装置で扱える形式に変換する必要があり、このための技術習得も必要となる。 また臨床での術者・患者負担の軽減に寄与したことを定量的に評価する手段を確立する必要があり、現時点では手技に要した時間を主な判定基準とすることを考えている。 得られた成果は、適宜日本放射線腫瘍学会や日本医学放射線学会、日本メディカルAI学会等の関連学会で発表していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度使用額として計上していた金額のうち、旅費については概算で計上していた金額と実費との差額、備品の購入については価格変動やサプライヤーの変更により当初の予定との間に差額が生じた。消耗品費に含めているクラウドコンピューティング使用料について、研究の進捗の程度により使用頻度が当初の予定より下回っていること、および予備的な検討についてはより安価なサービスを代用していることにより当初予測していた金額を下回っている。 クラウドコンピューティング利用料については今後研究の進捗に応じ使用頻度が上昇してくることが予想され、次年度使用額は主としてこれに充当する予定である。
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