現在,放射線腸管障害に有効な治療法はなく,その致死性は極めて高いとされる。他方,がん抑制因子として知られるp53は,放射線腸管障害に対する抵抗性因子として機能することが明らかにされてきた。近年見出された5-クロロ-8-キノリノール(5CHQ)は,p53を阻害することなくその標的遺伝子発現を放射線抵抗性に調節し,マウス放射線腸管障害を効果的に防ぐなど,放射線腸管障害に有効な防護剤開発における有望なシード化合物として注目されている。 本研究では,5CHQよりも効果的に放射線腸管障害を防ぐ防護剤候補化合物として見出された,5CHQ誘導体である5-キノキサリノール(5QX)について,放射線防護活性評価,並びに作用機序解析を行った。培養細胞を用いた防護活性評価では,5QXは5CHQと同等のp53依存的防護効果を示した。5QX単独で処理した培養細胞では,p53標的遺伝子であり,放射線腸管障害の抑制に有効とされるp21をコードするCDKN1Aの発現が増加することなども明らかとなった。 さらに,腸組織において放射線抵抗性因子として機能するp53を薬理的に阻害した場合,マウス後半身への亜全身照射に対する感受性がどのように変化するかについても検討した。その結果,p53阻害剤であるオルトバナジン酸ナトリウム(バナデート)は亜全身照射後の急性腸管障害を抑制できず,照射後生存率を改善できなかった。一方で,全身照射後に生じる急性骨髄障害に対してバナデートは優れた防護効果を示し,照射後生存率を劇的に改善させた。これらのことから,バナデートは全身被ばく状況下にて生じる骨髄症候群に対して特に有益であるが,腹部への部分被ばくにより生じる胃腸管症候群に対して効果がないと考えられた。
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