研究課題/領域番号 |
19K17153
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
宮田 裕作 久留米大学, 医学部, 助教 (60647816)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 子宮頸癌 / PD-L1 / 化学放射線療法 / CD163 / 2年無増悪生存期間 / 低酸素 |
研究実績の概要 |
2013年から2017年にかけて化学放射線療法を行なった子宮頸癌患者に対して,癌発達とその治療の免疫機序について,PD-L1などの免疫マーカーを組織学的に調査し,その変化が治療抵抗性とどの様に関与するかを調べた.以前に治療効果判定目的に採取した標本を,本研究のため2019年度から2020年度に改めて再評価した.治療は体外照射と腔内照射を組み合わせ(体外照射を先にはじめ途中から腔内照射を導入する),進行期などに応じて適宜化学療法を併用したが,これは世界的に行われている標準治療である.この研究の肝は,治療前と治療中,治療後に採取した検体を用いて前述の因子の経時的な変化(動態)を調べることで,まだ他に研究報告はない(実験レベルで通常診療では行わない様な放射線量を用いた動態研究はあるが,実際の治療に則したヒトの標本を使った研究は本研究独自である).2020年9月までに組織学的評価を終了し,以降統計処理を行なってきた.調査したマーカーはPD-L1,PD-1,CD8,KP-1,CD163,FOXp3である.2年間で再発や転移を起こさず,いかなる理由でも死亡しなかった場合を治療奏功群,それ以外を治療失敗群に分けて,これら免疫マーカーの推移を観察した.観察した時点は治療前,体外照射のみの期間中,体外照射+腔内照射併用期間中,治療後の4ポイントである.調査の結果に移るが,治療前および体外照射のみの段階では治療奏功群と失敗群で免疫マーカーの値に差は見られなかったが,腔内照射を始めた後と治療後で,腫瘍周囲の細胞に発現するPD-L1とCD163(腫瘍発育促進マーカー)が治療失敗群で高く,治療奏功群で低い結果となった.これより腔内照射が始まった段階である程度予後予測ができる可能性が判明した.またなぜ確立された標準治療の効果が得られないのかという問いの答えへの道標となった(追加実験後に論文投稿予定).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度までに実験は終了した.ただその結果,標準治療である化学放射線療法に抵抗する症例(治療開始後2年間で再発・転移した,あるいは原因を問わず死亡した症例)において,体外照射+腔内照射中および治療後に腫瘍微小環境(腫瘍周囲の血管や免疫細胞)に発現するCD163とPD-L1の発現率が治療奏功群(治療開始後2年間で再発・転移せず,かつ原因を問わず死亡しなかった症例)と比較して優位に高い結果となった.治療前と体外照射のみの期間中はどちらの群も増加傾向で,差はなかった.PD-L1は抗腫瘍効果を抑制する腫瘍細胞に発現するマーカー,CD163はM2マクロファージの代表マーカーであり,いずれも低酸素環境下で増加することが知られており,低酸素状態では放射線の治療効果が減弱する.そこで予後不良群は治療中に何らかの原因で低酸素状態が持続するのではないかと仮説を立て,低酸素マーカーの一つであるHIF-1を免疫染色する追加実験を始めている.このため本研究の科研費申請期間は2年間であったが,1年間の延長申請をした.2021年度前半には実験および統計処理が終了し,年度中に論文報告を目指す.
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今後の研究の推進方策 |
上記にも記載したが,体外照射+腔内照射中および治療後に腫瘍微小環境(腫瘍周囲の血管や免疫細胞)に発現するCD163とPD-L1の発現率が治療奏功群(治療開始後2年間で再発・転移せず,かつ原因を問わず死亡しなかった症例)と比較して優位に高い結果となった.治療前と体外照射のみの期間中はどちらの群も増加傾向で,差はなかった.PD-L1は抗腫瘍効果を抑制する腫瘍細胞に発現するマーカー,CD163はM2マクロファージの代表マーカーであり,いずれも低酸素環境下で増加することが知られており,低酸素状態では放射線の治療効果が減弱する.そこで予後不良群は治療中に何らかの原因で低酸素状態が持続するのではないかと仮説を立て,低酸素マーカーの一つであるHIF-1を免疫染色する追加実験を始めている.このため本研究の科研費申請期間は2年間であったが,1年間の延長申請をした.2021年度前半には実験および統計処理が終了し,年度中に論文報告を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度までの実験で,治療開始から2年間で治療抵抗性であった患者は治療期間中に一部の免疫マーカーである腫瘍微小環境のPD-L1とCD163の発現率が治療奏功群に比べて有意に高く,治療抵抗性の患者は治療開始後より治療終了後まで低酸素状態が持続するのではないかという仮説が得られた.現在これを証明するための追加実験を行なっており,次年度使用額が生じている.ただ低酸素状態かどうかが治療効果予測因子および免疫チェックポイント阻害薬を導入するに際して非常に重要な要素になると確信しており,必要な延長と考える.
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