本研究は、化学放射線治療を行う原発性肺癌患者に対して、DNA損傷修復や免疫チェックポイントに関連するタンパク発現を免疫組織染色によって調べ、末梢血リンパ球や血中に含まれるエクソソーム(細胞外小胞)に内包されるmRNAおよびmicroRNAの発現を解析し、放射線治療効果や放射線性肺障害を予測するバイオマーカー探索を行うことを目的としている。 2022年度は、前年度同様、肺癌化学放射線治療後に抗PD-L1抗体であるデュルバルマブ投与を行う患者より、照射前および照射後に血液を採取し、血漿およびリンパ球などの試料を分離採取し、生検検体におけるDNA損傷修復タンパクおよび免疫チェックポイントに関わるタンパク発現の免疫組織染色解析や、照射前および照射後において、新たに次世代シーケンサーを使用したTCRレパトア解析を行った。 結果、完全奏効したすべての症例において、優位T細胞クローンの拡大が観察された。一方、再発が見られたPD症例では、クローンの拡大も変化も観察されなかった。クローン拡大はCRT後に開始され、PD-L1遮断後にさらに増強された。このような経時的変化は、腫瘍特異的なT細胞クローンの増殖と腫瘍への動員を示していると考えられ、まだ少人数の予備的な研究ではあるが、このような解析を進める事で、肺癌の腫瘍微小環境を間接的にモニタリングでき、化学放射線治療および免疫チェックポイント阻害薬の効果予測に有用な可能性があると考えている。 今後は更なる治療効果予測精度の向上を目指し、異なるバイオマーカーも検討し肺癌に対する個別化放射線治療の実現を目指す。
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