γH2AXは感度の高いDNA二本鎖切断(DSB)のマーカーであり、CT検査などの数10 mGy程度の低線量放射線被ばく後であってもDNA損傷の評価が可能である。多くの報告では、γH2AX染色のタイミングを被ばく15分後に設定しているが、亜致死損傷の回復(SLDR)によるDNA修復動態を考慮すると、15分後が至適なタイミ ングかどうかに関しては議論が分かれる。そこで、我々はDNA損傷が固定化される数時間後のほうがより細胞生存率を推定するという仮説をたて、ヒト・哺乳類 培養細胞を用いて、至適な染色タイミングを検討した。 ヒトHeLa S3細胞、マウスEMT6乳腺肉腫、B16F0メラノーマ細胞に対し10、50、150、500、2000、4000 mGyのX線照射後、それぞれ15分、2、6、12、24時間後に γH2AX免疫染色を行い蛍光顕微鏡下1核あたりのγH2AX foci数・蛍光量を計数した。また、DNA損傷と細胞生存率の関係を調べるため、コロニー試験により細胞 生存率(Surviving fraction)とγH2AX fociのコントロールに対する相対的なfoci数・蛍光量の相関関係を求めた。細胞増殖の影響が予想されたため、全視野 の核数変化も測定も同時に行った。 X線照射後、15分でγH2HX foci数は最大となり、コントロール群に比べB16F0、HeLa細胞では500 mGy~4000 mGy群、EMT6では2000、4000 mGy群において有意にγH2AX foci数が上昇した。また、B16F0、HeLa細胞では10~150 mGy、EMT6では50 mGy~150m Gyにおいても、線量依存性にγH2AX foci数が上昇する傾向が観察された。その後、γH2AX foci数は緩やかに減少し、総じて12~24時間後にはコントロール群と同レベルに低下した。
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