水は“氷”の状態から“液体の水”に変わるような分子間相互作用の変化があるときに融解潜熱を吸収する。MR信号のみではわからないこの分子の束縛する相互エネルギーを直接観察することで、MR信号を理論的に解明することを大きな目的として研究を行った。 温度変化をさせながら熱の出入りを測定可能な示差走査熱量測定(DSC)を用いて、骨格筋細胞の融解潜熱を-80℃からゆっくりと上げていく過程で測定したところ、0℃のみならず-24℃や-21℃で融ける2種類の水があることが分かった。この2種類の水の融解は細胞内のどこで生じているかを解明するために、細胞膜を除去した骨格筋除膜筋線維を用いた実験を行った。骨格筋除膜筋線維では細胞膜がないため細胞内環境を一定にしやすいこと、骨格筋はサルコメアを単位とした規則周期構造と考えられるため解釈がしやすい、また主要な筋タンパクであるアクチンやミオシンを各々特異的に除去する方法が確立されているため、この骨格筋除膜筋線維を用いた。 このDSCを用いた融解潜熱の測定を除膜筋線維のネイティブな変性前、+60℃まで温度を上昇させミオシンを変性させた状態、+80℃まで上昇させミオシン・アクチンを変性させた状態の3つを比べてみることで、ミオシンの変性では主に-21℃の融解潜熱ピークに影響を及ぼし、アクチンも変性させると-21℃や-24℃のいずれにも影響を及ぼした。また、アクチンの変性を加えたサンプルでは温度上昇時の比熱が変性前より低下した。これらの結果は高イオン強度でミオシンを特異的に除去した場合や、血漿タンパク質であるゲルゾリンによりアクチンを特異的に除去した場合でも同様の傾向が確認され、この-21℃や-24℃で融ける水は細胞内のアクチンやミオシンに関連した水を反映していることが示唆された。
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