アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患は、アミロイドβやαシヌクレインなどのタンパクの異常凝集・蓄積が原因とされ、その発症や増悪には炎症が関わることが示唆されている。本研究では、様々な神経変性疾患において脳内で発現量が増大しているTLR4を標的とする18F標識PETリガンドを開発し、小動物における脳内移行性及び有効性を検証する。 TLR4は脳内では主にミクログリアやアストロサイト細胞膜表面に発現し、LPSなどが結合することで活性化され、TNF-αやIL-6、IL-1βなどの炎症性サイトカインを産生し、炎症反応を惹起するとされている。実験的には加齢マウスにおいて、ミクログリア細胞膜上のTLR4にリガンドが結合すると、ミクログリアが活性化されてアミロイドβが減少することが報告されている。加えて、アルツハイマー病患者において、TLR4の脳内発現量が増加することも報告されている。これらの報告から、TLR4の脳内密度や分布などの情報が得られるバイオマーカーとなるPETリガンドの開発は、神経変性疾患における治療法の開発に役立つことが期待される。 当初、PETリガンドには、脳梗塞モデルマウスにおいて脳内移行性及び薬効が報告されているDNAアプタマーを予定しており、蛍光標識したDNAアプタマーを健常マウスに投与し、脳内移行性を検証したところ、その脳移行性を確認することができた。しかし、本研究で用いたDNAアプタマーは鎖長が長く、熱的安定性が高いため、18F標識化後に放射性薬剤としてHPLCによる分離精製が困難であることが示唆された。そのため、標識化後に放射性薬剤として分離精製が可能と考えられるTLR4阻害剤として、分子量2500程度のペプチド分子を新たにPETリガンドとして検討した。
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