前年度までに、阻止能比を高精度に求めることができる畳み込みニューラルネットワークを開発し、その精度を検証した。骨領域ではやや誤差が大きくなる傾向が見られたものの、全体の誤差は一般的な粒子線の阻止能の不確かさと同程度であり、浅い領域への照射であれば現時点の精度でも十分に利用可能であることが判明した。また、変換に要した時間は1症例あたり約1.3秒と十分に高速であり、本手法はオンラインでの線量分布計算にも応用可能な速度であることが確認できた。粒子線の飛程と飛程の誤差の関係を調査したところ、通常両者は線形であると仮定するのが一般的であるが、両者の関係が非線形であるという学術的に新たな発見も見られた。これらの研究成果は日本医学物理学会で発表し、インターナショナルセッションでの学術的な賞を受賞するなど、高い評価を受けている。 2022年度には、患者の体型変化が粒子線治療に及ぼす影響を低減するため、上記の4手法以外の新たな手法を模索した。患者の体表面の形状変化が粒子線治療の精度に大きな影響を及ぼすことに着目し、体表面画像誘導装置を用いて患者の体表面形状を高精度、かつ定量的に評価する手法を開発した。開発した手法は、患者の体表面形状をサブミリメートル精度で定量化することが可能であり、実際の患者にも適用可能であることが確認できた。本研究によって開発された手法を臨床に用いることで、これまでボトルネックとなっていた粒子線の飛程の誤差を改善し、粒子線治療の精度を向上させることが期待される。
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