研究課題/領域番号 |
19K17209
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
青木 孝子 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 博士研究員 (10740954)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 初期膝OA / 脛骨骨棘幅 / T2map / 疑似カラー化 / 内側半月板逸脱幅(MME) / 骨棘骨成分 / 骨棘軟骨成分 |
研究実績の概要 |
今年度は研究項目Iに掲げた「MRI proton density-weighted imaging (PDWI)を用いた骨棘軟骨成分検出法の確立」について取り組んだ。PDWIは濃度分解能が高くグレースケールでは境界が不明瞭となる場合が多いため、疑似カラー化は画像データを変更することなくグレースケールに輝度値(青~緑~赤)を割り当てることで、異なる輝度値(ほぼ組成を反映)を持つ組織を色分けできる利点がある。本研究の柱となる脛骨骨棘の骨成分と軟骨成分のPDWIによる測定値は以前報告したT2map同様に組織像と一致し測定値として有効であるか、について検証した。OAIデータでは実証できないため、当院を受診し人工膝関節置換術を受けた患者10名を対象として、骨棘の組織像、MRI T2mapping、そしてPDWIを用いて骨棘の軟骨成分と骨成分を分けて計測し、相関係数及びICCを求めた。結果として、組織像、T2map、そしてPDWIの3者はいずれの組み合わせにおいても測定値の高い一致性を確認した。これにより骨成分と軟骨成分の2成分を持つ骨棘の真のサイズを評価し、その変化と半月板逸脱幅(MME)の変化の関連性を検討することが可能になった。今後は、すでにOAIデータから早期膝OA群の抽出を済ませて解析を進めているスウェーデン・Lund大学のEnglund博士と同じ対象者のデータを用いて解析を進めていく。以上より、「早期膝OA」の病態として「骨棘幅拡大によるMME進行」が重要であることを示すことで、膝OAの新たな診断と治療に通じる重要なエビデンスの構築を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
変形性膝関節症(膝OA)の骨棘は、内軟骨性骨化と同様の過程で形成され、骨成分のみではなく軟骨成分が存在する. しかし、従来 OAの形態学的変化の評価ではレントゲン上軟骨成分は上見えないため、骨成分の骨棘のみが評価されてきた。我々はMRIによるT2 color-mappingに着目した。組織は固有のT2値を持つため異なる組成を持つ骨棘の骨成分と軟骨成分は異なる色で表示される。その結果、内側半月板逸脱(MME)と最も関連する因子は軟骨成分を加味した脛骨総骨棘幅であることを示した。しかし、T2mapは撮像時間が長く汎用性に乏しい。そこで日常的に用いられているプロトン密度強調脂肪抑制画像(PDFS)がT2mappingおよび組織標本の各骨棘成分の計測距離と一致するかを検証した。人工膝関節単顆置換術を施行した10名(平均年齢74.2歳[63-83歳]、男性1名、女性9名)の膝OA患者を対象とした。術前に施行されたMRI画像から、冠状断像で脛骨幅が最大になる部位を計測部位とし、手術時に切除した脛骨近位内側部分を用い、MRI冠状断像と同じ部位の組織標本を作成しそれぞれの骨棘幅を計測した。グレースケールのPDFS画像は疑似カラー化し骨棘幅を計測した。全骨棘幅の相関係数rとICC (95%CI)は、組織,T2map, PDFSのいずれの組み合わせにおいてもr=0.97, ICC=0.96 (0.86-0.99) 以上の高い一致性を示し、T2map同様PDFSを用いた骨棘幅の計測の有効性を確認した。一方、半月板変性については、T2mappingでの評価を組織像と対比して検討したが、組織学的変性度とT2は相関しなかった (r=-0.17, p=0.29)。
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今後の研究の推進方策 |
今後は研究項目IIに掲げた「OAIコホート中の早期膝OA群におけるMME変化と骨棘変化の関連性検討のための縦断研究」を進めていく。早期膝OAにおける病態においてブラックボックスとなっているMMEとsais骨棘の関連性について、骨棘の軟骨成分に注目することで早期膝OAにおける骨棘の役割を明らかにする。 (1)OAIデータから早期膝OA群の抽出を済ませて解析を進めているスウェーデン・Lund大学のEnglund博士と同じ対象者のデータ(ベースライン[BL], 24, 36, 48か月)はすでに抽出済みである。 (2)MMEと骨棘幅の変化及び内側半月板変性評価をBL, 24, 36, 48か月について行う。 本研究の軸は骨棘にあり、骨棘の変化に伴うMMEの変化および半月板変性の評価を行う予定である。 MMEについては骨棘幅と一致または不一致(長いもしくは短い)の頻度、そして一致しない理由を考察する。また、半月板変性については損傷のない場合、画像のみで変性度を知ることは困難であるため、損傷程度を変性度とみなす。骨棘の変化については骨棘幅拡大における性差、速度、要因、パターン、MMEは骨棘幅拡大に追従して拡大するのか、すべての人が同様に骨棘とMMEが拡大するのかなどを含め「骨棘幅拡大によるMME進行」を明らかにすることで、「早期膝OA」の病態を少しでも解明し、新たな診断と治療に通じる重要なエビデンスの構築を目指す。MRIを用いた画像計測による病態解析は「関節軟骨の変性及び摩耗に至る半月板位置異常(逸脱)の機序」を明らかにする。膝OAの進行過程として、骨棘が形成されることで冠状靭帯が引っ張られてMMEを起こし、半月板に覆われていた関節軟骨には通常の力学的負荷であっても半月板による緩衝作用が減少/消失することにより過度の負荷となり摩耗のリスクが増す、という仮説を縦断研究により検証していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度、来年度は得られた成果について国内外の学会で発表する予定であるため、旅費が発生する。新型コロナウィルスの影響による国際学会の参加見合わせもありうるが、webまたは紙上発表は行うため参加登録費が発生する。その他消耗品の購入、AIを活用した3次元画像解析を考えているが、それを行うには容量の大きいPCの購入が必要になる可能性がある。MatlabのAIアプリは重たく、現在使用しているノートPCでは困難であることが判明した。
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