本研究は、不均一な放射線場における放射線感受性の解明を目指して、培養細胞を用いた実験研究と細胞応答予測モデル(以下、IMKモデル)の開発を進めた。令和3年度は、細胞を含む培養フラスコの50%の面積を鉛板で遮蔽した照射実験を行い、照射後に修復されずに残るDNA損傷を検出した。また、得られた実測データを活用し、開発したIMKモデルの検証やDNA損傷を起点として細胞応答を予測する理論モデルの高精度化へつなげた。それらの成果は、今後、放射線分野で国際的に著名なジャーナルにて発表する予定である。 本年度に実施した細胞実験では、令和2年度同様に、ヒト前立腺がん細胞株とヒト肺非小細胞がん細胞株を使用し、それら細胞を含む培養フラスコの50%または100%の面積にX線を照射した。また、低酸素培養キットであるn-BIONIXを使用することにより照射時の細胞内酸素濃度を0~20%と可変させ、照射24時間後に細胞内に残存するDNA二本鎖切断を抗γ-H2AX抗体による免疫蛍光染色法を用いて可視化し、照射細胞と非照射細胞における吸収線量と残存DNA損傷数の関係を実測した。さらに、測定したDNA損傷残存数を、昨年度に開発したIMKモデルの推定数と比較し、照射細胞と非照射細胞の双方向で交わされるシグナル効果について調べた。その主な成果として次の2点が明らかとなった。(1) 照射24時間後に照射・非照射細胞内に残存するDNA二本鎖切断数は生存率の対数値と良好な相関性がある。(2) 細胞間シグナル効果により非照射細胞に残存するDNA損傷数と生存率は酸素濃度依存的に変化する細胞へのヒット数で説明できる。 以上の細胞実験とモデル開発による成果から、様々な酸素条件下において照射細胞と非照射細胞間のシグナル効果を再現可能な細胞応答予測モデルの開発し、不均一放射線場における細胞応答メカニズムの解明に成功した。
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