研究課題/領域番号 |
19K17222
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
橋本 拓磨 東北大学, 医学系研究科, 助教 (50799145)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 低酸素 / 放射線抵抗性 / 転写因子 / DNA修復酵素 |
研究実績の概要 |
重度な低酸素状態(酸素濃度0.1%未満)の細胞は高い放射線抵抗性を示す。しかし、低酸素状態の細胞において、放射線抵抗性を制御する生物学的な分子機序の詳細は明らかになっていない。これまでに、SV40でトランスフォームされたヒト線維芽細胞株LM217において、1) 放射線抵抗性に関与するDNA2重鎖切断修復酵素ATM・DNA-PKcsの発現および活性が、重度な低酸素処理により亢進すること、2) これら修復酵素の活性化およびATMの発現量の亢進は、エネルギーバランスのセンサーであるAMPKを介していることが明らかになっている。本研究課題では、重度な低酸素状態により誘導される転写因子を探索し、AMPKシグナル伝達経路が転写因子を介してATM・DNA-PKcsを制御するまでの分子機序を解明することを目指している。 本年度は、ヒト神経膠芽腫細胞株T98Gを用いて、重度な低酸素状態において発現が亢進する転写因子を探索した。その結果、ストレス応答性の転写因子であるSp1が重度な低酸素状態で亢進することを明らかにした。他のストレス応答性の転写因子であるFoxO3aの発現の亢進はわずかであった。siRNAを用いてAMPKをノックダウンしたところ、低酸素状態におけるSp1の発現量は減少した一方で、FoxO3aの発現量は減少しなかった。また、Sp1またはFoxO3aをノックダウンしたところ、低酸素状態におけるAMPKの発現量には顕著な影響はみられなかった。さらに、Sp1をノックダウンした場合にはATMの発現量が減少したが、FoxO3aのノックダウンでは減少しなかった。これらの結果から、重度な低酸素状態におけるATMの発現制御には、転写因子Sp1が役割を担い、さらにAMPKが上流因子として作用していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、重度な低酸素状態に応答する転写因子の探索を行い、当初の予定通り、複数の転写因子を候補分子として見出すことができた。また、これら候補分子のうち、Sp1がATMの発現を制御していること、さらにはAMPKの下流にあることを明らかにしたことは、低酸素状態におけるAMPK-ATM間の分子機序の解明をするうえで重要な進展であると考えられる。一方で、重度な低酸素状態でDNA-PKcsの発現制御を制御する転写因子については明らかにできていない。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の結果から、AMPKおよびSp1が低酸素状態における細胞の放射線耐性に影響を与えていることが考えられる。そのため、AMPKまたはSp1をノックダウンした条件において低酸素処理を行い、細胞の放射線抵抗性への影響を解析する。また、Sp1がDNA-PKcsに与える影響についてもATMと同様に解析し、低酸素状態における細胞の放射線抵抗性とDNA-PKcsの関与について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞を低酸素状態にするために、低酸素培養用のチャンバーおよび酸素濃度測定機器を使用しており、ともに経年劣化による装置の修理または新規購入を予定していたが、使用可能であったため次年度に行うことにした。また、次年度には消耗品や抗体、培養細胞に加えて、酸素濃度の異なる特注の混合ガスを新規に購入する予定である。
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