放射線治療の成績の向上には低酸素細胞の放射線抵抗性の克服が重要である。癌の低酸素細胞の放射線抵抗性は、酸素存在下でのラジカル反応だけでは説明がつかないため、生物学的要因が示唆されているが、低酸素における放射線抵抗性を制御する具体的な分子機序は明らかになっていなかった。これまでに本研究代表者らは、正常なヒト線維芽細胞NHDF、ヒト角化細胞NHEK、SV40でトランスフォームさせたヒト線維芽細胞株LM217およびLM205を用いて、重度な低酸素状態が放射線抵抗性に関与するDNA2重鎖切断修復酵素ATM・DNA-PKcsの発現および活性を亢進させること、そして、エネルギーバランスセンサーであるAMPKやSrcシグナル伝達経路を介していることを明らかにしてきた。 本研究課題では、ヒトグリオーマ細胞株T98Gを用いて、低酸素状態が転写因子の発現や活性に与える影響を検討するとともに、AMPKやSrcシグナル伝達経路が転写因子を介してATM・DNA-PKcsを制御するまでの分子機序を解明することを目的とした。その研究の結果、(1) 癌細胞であるT98Gにおいても、低酸素状態でDNA修復酵素ATM・DNA-PKcsやAMPK、生存シグナルAktやSrc/EGFR情報伝達経路が活性化すること、(2) 低酸素によるATMの発現の亢進は、AMPKおよび転写因子Sp1により制御され、(3) AMPKの発現抑制により、低酸素状態のT98Gを放射線増感できることが明らかになった。 本研究により、上記の分子を標的として低酸素状態にある癌細胞を選択的・効率的に放射線増感させることで癌の放射線抵抗性の克服につながることが期待される。
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