本研究では妊娠時を想定した腹部ファントムを開発した。開発されたファントムにはCT値を考慮してポリウレタン樹脂を使用した。妊婦時の腹部の大きさは週数や体格によって異なるため、2種類の大きさを設計し、ファントム内部に線量計を配置できるようにした。今までに無いファントムを開発できた。さらに、開発したファントムで骨系統疾患の出生前診断で胎児が受けるCT検査の被曝線量評価と被曝線量低減策を検討した。 本研究によって開発されたファントムを使って異なる管電圧にてCT検査時の被曝線量評価を行ったところ、高電圧で撮影した胎児線量は低電圧撮影時に比べて低減していることを確認した。高電圧撮影では低電圧撮影に比べて、X線の透過性が亢進しており腹部表面近傍の被曝線量が低くなったためであると考えた。妊婦の腹部内の線量分布を観察することが可能になり、腹部内の中心線量と表面線量の比率は電圧が大きくなるにつれて減少していることも確認した。また、画質は各電圧のノイズレベルを評価し、違いは見られなかった。低電圧撮影の利点として、低コントラスト分解能向上やヨード造影剤使用時の造影効果の増強が挙げられる。しかし、骨系統疾患の出生前診断では高コントラストである骨の評価を行い、ヨード造影剤を使った検査は一般的に行われない。これらの結果を踏まえて、CTによる骨系統疾患の出生前診断の管電圧は、高電圧に設定することを提案したい。 これらの結果は、妊婦・胎児がCT検査を受ける際の被曝線量低減策として非常に有意義な結果であるといえる。胎児が異なる管電圧でCT検査を受ける際の被曝線量評価に関する成果をとりまとめた論文の投稿を行った。論文はJournal of Applied Clinical Medical Physicsに掲載された。
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