研究課題/領域番号 |
19K17229
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
大彌 歩 信州大学, 学術研究院医学系, 助教 (60837079)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 卵巣原発粘液性腫瘍 / MRI / CEA / CA19-9 / MUC6 / αGIcNAc |
研究実績の概要 |
本研究は、卵巣原発粘液性腫瘍について、MRIによる画像所見などの術前の臨床所見と発現するムチンコア蛋白と糖鎖の悪性度との違いを調べ、これら術前の所見からムチン、糖鎖の発現を予想してより正確な悪性度診断が施行できるようにすることを目的としている。 まずMRI所見と腫瘍マーカーと悪性度との関係性について調査した。単変量解析にて、画像所見では「腫瘍の最大径」、「蜂巣様所見」、「ステンドグラスパターン」、「壁在結節」、嚢胞内の信号パターン(そのうち、「T1強彫像とT2強調像で共に高信号」、「T1強調像高信号でT2強調像で低信号」となる2つの組み合わせ)が統計学的に各悪性度にて違いが認められた。腫瘍マーカーでは、CEA、CA19-9が統計学的に各悪性度にて違いが認められた。MATRABを用いて、これらの所見の全ての組み合わせ(256通り)で分類木を作成し、最も病理診断との一致率の高くなった分類木を選び、構成要素となる所見を調べた。その結果、一致率が最も高くなった分類木は2つあり、そのうちの一つは「T1強調像高信号でT2強調像で低信号」、CEA、CA19-9の組み合わせで構成されていた。もう一つは、T1強調像高信号でT2強調像で低信号」、CEA、「壁在結節」の組み合わせで構成される分類木であった。以上から、術前に得られる所見のうち、卵巣原発粘液性腫瘍の悪性度を診断する上で重要な所見は「T1強調像高信号でT2強調像で低信号となる2つの組み合わせ」、「壁在結節」CEA、CA19-9であることが示された。 次に、分子病理学的側面からの調査も臨床情報の解析と同時に進行で施行した。免疫染色にてMUC2、MUC5AC、MUC6のコア蛋白並びに糖鎖であるαGIcNAcの発現と悪性度との関係を調べた。その結果、粘液性腫瘍の悪性度とMUC6、αGIcNAcの発現に違いがあることが統計学的に示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MRIの画像所見と腫瘍マーカーによる術前の臨床情報と卵巣原発粘液性腫瘍の悪性度による違いの解析は、当初の予想より進展が遅い。理由としては、対象とする症例の病理学的な再検討に時間がかかったこと、MRIの所見に嚢胞内容の信号パターンの違いによる検討を追加したことで再検討が余儀なくされたことによる。論文投稿までは行えなかったが、現在は論文作成中で、詳細な検討ののち近日投稿する予定である。 一方、免疫組織化学的な手法による卵巣原発粘液性腫瘍の悪性度によるムチンと糖鎖発現の違いの調査は予想より早く進行した。MR画像解析と同時進行で免疫染色を進め、ムチンと糖鎖の発現の解析が全ての症例で行えたことによる。一段階の解析がすでに終了しており、悪性度とMUC6、αGIcNAcの発現との間に統計学的な違いが認められ、当学分子病理学教室で行われた胃や膵癌、子宮頸部の胃型粘液性癌で認められた結果と同じであり、予想通りであった。本年中のこの結果を学会等で発表する準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果から、MRIの所見のうち、分類木から嚢胞内容が「T1強調像で高信号、T2強調像で低信号」となる所見が、卵巣原発粘液性腫瘍の悪性度診断において重要度の高い所見であることが判明した。この所見は嚢胞内容の成分によると考えられる。嚢胞内容の信号変化に影響を与えるものとして、一つは出血が考えられる。一般的に腫瘍の悪性度が高くなると、出血を伴う頻度が高い。しかし、「T1強彫像とT2強調像で共に高信号」の場合も出血ではよく見られる所見であり、「T1強調像で高信号、T2強調像で低信号」とはFeの状態の時間経過のみの違いである。「T1強彫像とT2強調像で共に高信号」が含まれる分類木より「T1強調像で高信号、T2強調像で低信号」が含まれる分類木が病理との一致率が高くなる理由がはっきりしない。一方、液体の粘稠度もMRIの信号に影響を与える。本研究による結果は、粘稠度に影響を与える物質が悪性度による異なることによるのかもしれない。我々の免疫染色の結果では、各悪性度とMUC6、αGIcNAcの発現に違いがあることから、これら分泌されるムチンや糖鎖の増減がMRIで見られる嚢胞内容の信号の違いに影響している可能性が考えられる。今後画像所見と免疫染色の結果を詳細に解析する必要がある。 一方、免疫組織化学的な検討では、MUC6、αGIcNAcが悪性度に従って発現が減少することが判明した。αGIcNAcは発癌を抑制する糖鎖であり、この現象は、胃癌、膵IPMN、膵癌、LEGH、子宮頸部胃型粘液性癌で認められる結果と同様である。αGIcNAcの発現が低下するとp53の陽性率が高くなることが知られており、今後検討する予定である。また、癌抑制遺伝子として近年注目されるTrefoli Factor Family 1やTrefoli Factor Family 2の発現についても今後検討を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
MRI所見と卵巣粘液性腫瘍の悪性度の関係を示した論文作成が年度内に終了しなかったため、予定していた論文の校正費用や論文採用された場合のオープンアクセス代として予定した分を使用することができなかった。そのため、次年度使用額および次年度請求を行った助成金を用いて、これらを行う予定。 また、免疫組織化学的検討の追加実験を今後行うことを予定としており、実験に必要な機材を購入する予定である。
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