研究課題/領域番号 |
19K17229
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
大彌 歩 信州大学, 学術研究院医学系, 助教 (60837079)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 卵巣原発粘液性腫瘍 / MRI / CEA / CA19-9 / MUC6 / αGIcNAc / MUC5AC / MUC2 |
研究実績の概要 |
卵巣原発粘液性腫瘍については過去様々なことが報告されてきたが、境界悪性や悪性の場合でも画像上充実成分を欠く症例も見られ、悪性度診断が難しい。そこで我々は、卵巣原発粘液性腫瘍の新しい画像診断確立のため、主に画像診断に依拠した研究と免疫組織学的手法を用いた分子病理学的な研究を行い、現在までに2つの成果を得た。 1つはMRIと腫瘍マーカーの所見の組み合わせによる分類木を用いた悪性度診断について、成果を得、Abdominal Radiology誌に掲載された(Ohya A,et al. Abdominal Radiology (2021) 46: 2393-2402). 嚢胞内容のT1強調像、T2強調像における信号が前者が高信号、後者が低信号を呈する場合が、卵巣原発粘液性腫瘍の悪性度診断において極めて重要であることが判明した。 続いて、腫瘍が分泌する粘液に着目し、ムチンコア蛋白であるMUC2、MUC5AC、MUC6とMUC6に付加されるαGlcNAcの発現と卵巣原発粘液性腫瘍の悪性度との関係を免疫組織学的手法を用いて証明した。この成果はActa Histochemica et Cytochemica誌に掲載された(Ohya A, et al. Acta Histchem cytochem (2021) 54: 115-122).MUC6、αGlcNAcの発現減少が、卵巣粘液性腫瘍の悪性度の進行と関係していることが判明した。これは、膵癌、IPMN、胆管癌、子宮頸部の胃型腺癌といった、前駆病変から癌に至るシーケンスを有する癌腫と同様の結果であった。αGlcNAcの発現がないマウスでは自然に癌が発生することから、我々の結果から卵巣原発粘液性腫瘍においても、αGlcNAcが癌の発生を抑制する作用があると推測されることを反映していると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
MRIと腫瘍マーカーの所見の組み合わせによる分類木を用いた卵巣原発粘液性腫瘍の悪性度診断と免疫組織学的手法によるムチンコア蛋白、αGlcNAcの発現と卵巣原発粘液性腫瘍の悪性度との関係についてはそれぞれ結果を得た。しかし、これらのムチンコア蛋白や糖鎖発現とMRI所見や腫瘍マーカーとの間に明らかな関連性を発見することができず、当初予定していたMRI画像と病理学的所見との関係性についての研究は現在頓挫している状態。関連性があったとしても、悪性の症例数が足りず、関係性を求めることができないでいる。
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今後の研究の推進方策 |
症例数を増加して検討することも考えているが、卵巣原発粘液性腫瘍は比較的頻度の低い疾患であり、悪性の症例数を大幅に増加させることができないのではないかと推測される。 そこで、論文として発表したMRIと腫瘍マーカーの所見の組み合わせによる分類木を用いた卵巣原発粘液性腫瘍の悪性度診断について、validationを行っていないことから、今まで研究の対象としていなかった2019年、2020年、2021年の卵巣原発粘液性腫瘍の症例を用いて、新しい悪性度診断の未知の集団に対する診断能を確認すること、また改良点があれば改善することを今後進めていく研究の課題としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染の拡大のため、国際学会などに参加できず、当初予定していた旅費を使用することができなかった。また、計画どおりに研究が進まず、現在遅延している状態で、成果を得ることができず、論文作成などもできなかった。今後は、分類木を用いた診断法のvalidationのため、科研費を使用する予定。必要な統計ソフトや論文校正などで使用する予定である。
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