肥満は多くの疾患の原因となりうる病態である。生活習慣の改善で奏功しない患者は一定頻度でみられ、一旦減量に成功してもまた増量するいわゆるリバウンドもよく経験される。そのような患者に対しては更なる治療が必要となる。中でも外科手術は一部が保険適応となっており、現在日本各所で施行されている。しかしながら、一定確率で腸閉塞などの合併症がみられるため、より低侵襲な治療が求められ、その候補として血管塞栓術(Bariatric Arterial Embolization;BAE)が注目されている。食欲を増進させるホルモンであるグレリンが主に胃で生成されるため、胃を栄養する動脈を塞栓することでその分泌を抑制し、食欲低下を促すという治療法がBAEである。過去の報告では3カ月で6kg以上の減量が確認できており、比較的良好な成績と考えられる。しかしながら最大75%で術後に胃潰瘍がみられたという報告があり、安全性に関してはまだまだ改良の余地がある。上記報告では塞栓物質としてマイクロスフィアが用いられているが、これは血管内で溶解しない永久塞栓物質であり胃粘膜への阻血効果は比較的強いと思われる。これに対し、我々は血管内で溶解するゼラチンスポンジを塞栓物質として用いることで組織障害が軽減でき、ひいては胃潰瘍の発生を抑制できると考えた。この仮説を実証するため、溶解型ゼラチンスポンジとマイクロスフィアを用いてまずは正常豚の胃に対してBAEを行った。 結果は現在解析中であるが、溶解型ゼラチンスポンジを用いたほうが、胃潰瘍の発生頻度は少なく、その程度も軽度であった。一方、胃のグレリンを産生する細胞の減少の程度は溶解型ゼラチンスポンジとマイクロスフィアで差がなかった。以上のことから、溶解型ゼラチンスポンジはマイクロスフィアと比較し胃潰瘍の発生を抑えながらも同等の治療効果をもつ可能性があることが示唆された。
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